NATROMのブログ

ニセ医学への注意喚起を中心に内科医が医療情報を発信します。

勤務医のサービス残業

私が研修医だったころは、残業代はもらわなかったし、そもそも時間外勤務という概念自体がなかった。患者さんの状態が悪くなれば、泊まり込みででも診るのが良い医師とされた。医師としてのスキルを鍛えられたという一面もあったけれども、同時に燃え尽きる人も出た。ドロップアウトならまだいいほうで、過労死や自殺もあった。そういう時代と比べれば隔世の感がある。


■神戸大病院、残業代不払い=研修医らに1億6000万円(時事ドットコム)


 神戸大学付属病院の研修医ら延べ788人に総額約1億6000万円の残業代を支払っていないとして、神戸東労働基準監督署が同大に是正勧告をしていたことが30日、分かった。4月までに全額を支払ったという。
 神戸大によると、労基署が指摘した不払いの期間は2007年2月〜08年9月。是正勧告を2回、立ち入り調査を3回受けた。
 同病院は、研修医らに対し、医療行為に従事する時間や指導を受けている時間について、労働時間として自主申告するよう指示していた。しかし、労基署は自主的な学習などで院内にいた時間すべてを労働時間とすべきだとしたという。


正直に言って、うらやましいし、若いもんが楽しやがってという気持ちもある。しかし、研修医も労働者であり、正当な権利を行使しているだけである。堂々と要求していい。過酷な勤務が当たり前という状況に慣れてしまうと、患者さんの不利益にもなる。もちろん、研修医だけでなく、勤務医もだ。我々の世代はどうも慣らされてしまっている。記事では、「医療行為に従事する時間や指導を受けている時間」に加え、「自主的な学習などで院内にいた時間すべて」を労働時間とすべきとされている。私が過去に勤務していた、とある病院では、時間外勤務手当の支給要件が決められていて、自主的な学習時間はもちろんのこと、患者さんに説明したりカルテに記入したりするのに要する時間すら、時間外労働に含まれなかった。





患者さんへの説明は診療じゃないと?


暗黙の了解とか慣習でとかならまだしも、通達文書として記載されちゃっているところが、我々はなめられていたんだなあと、つくづく思う。これだけではなく、22時まではいくら働いても時間外手当はもらえないことが明示されている。サービス残業が当たり前って職場は他にもたくさんあるだろうが、「22時までは働いても時間外手当を払わないので、お前ら間違えないよう記録しろよ」って文書で通達するほどのところは珍しいと思うのだがどうか。





22時までは不払い労働


実際、22時までのぶんは時間外勤務簿に記載しても時間外手当はつかなかった。出るとこ出れば、たぶん勝てるんだろうけど、どうせ雀の涙であるし、しがらみやら面倒くさいやらで、結局そのままになっている。上記のルールに則ってすら、残業時間が月に80時間を超える人もいた。そうなると、なんだか健康管理センターみたいなところに呼び出されて、残業時間が多いから減らすようにと、「指導」されるそうである。働いている本人が

いやね、現実に医師は足りていないのだから、患者さんのためなら泊まり込みだって、連続当直だってするよ。「待機時間も労働時間だ、金払え」なんてことを言い出したら、現場が回らないのはようくわかっている。しかしね、「サービス残業当たり前、仕事が忙しいのはお前のせい」とまで言われると、やる気が持続しない。労働基準法すら守る気がないくせに、くだらん決まりごとで縛るような病院で働くのはまっぴらごめんだ。