「日本における癌死亡の地理的分布〜市町村別の標準化死亡比:1980年−1994年〜」の市町村別に主要な癌のリスクを可視化した地図は、ただ見ているだけでもなかなか興味深い。地域差がある癌については、以前、■ 肝臓癌はなぜ西日本で多いのか?で紹介したように、肝臓癌がよく知られている。リンパ性白血病についても、地域差があり、九州、とくに南九州と壱岐・対馬に多い。
リンパ性白血病 1990年〜1994年 九州・沖縄 男 |
リンパ性白血病が九州に多い理由はすでにわかっている。リンパ性白血病の一種である成人T細胞白血病は、HTLV-I (human T-cell leukemia virus type I)というウイルスが原因であるが、そのHTLV-Iの感染者が九州に多いのだ。おそらく、過去の民族移動によるものであろう。九州以外のHTVL-Iの感染率が高い地域は海岸線近くが多いというのも興味深い。
他に印象深かったのは、東北地方の胃癌についてである。隣り合った岩手県と秋田県で明らかに差がある。不思議!
胃癌 1990年〜1994年 東北 男 |
引用したのは1990年〜1994年の男性の図であるが、年代・性別に関わらず、同様の傾向がある。塩分摂取と関連して東北地方で胃癌が多いと思っていたが、岩手県ではそうでもないらしい。原因はよくわかっていないようだ。ネット上で入手できる情報としては、
これもやはり先程の塩分説に関係するんですけど、
寒い地方はどうしても塩分が過多になるんです。
ところが1つ不思議なことがありまして、
秋田、山形とありますけど、岩手県というのは非常に胃ガンが少ないんです。
隣なんですよ。(岩手県は24位)
調べてみたら、塩分の摂り方は岩手、秋田、山形でほとんど差がない。
それなのに、何故か岩手県だけ胃ガンが少ない。
未だに理由がわからなくて、いろんな人が調査中です。
そのあたりに何か解があるかもしれません。。。
というものがあった*1。他、「食塩と胃癌とのかかわり*2」というページにて、日本衛生学雑誌の論文を引いて、
日本の東北地方で相接している秋田県と岩手県の2町村で、胃癌の死亡率が著しく異なるという理由を探求し、食塩排泄量は14-15グラムと差がないことを認め、食餌中突然変異原性の比較による検討を行い、胃癌高率地域では変異原性の高い食事を摂り、低率地域ではそれの低い食事を摂っていることを観察し報告した
とあった。塩分摂取以外の食生活が関連しているらしい。しかし、岩手県と秋田県で、これほどまでに胃癌の死亡に差が出るほど食生活が異なるものだろうか。胃癌の発症と関係する要因として、食生活以外に、ヘリコバクター・ピロリという細菌の感染が知られている。ヘリコバクター・ピロリの感染率が秋田県と岩手県で異なるかどうか、調べてみたが見つけられなかった。他に、何か可能性のある原因はあるだろうか?