NATROMのブログ

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がん予防のためにできる6つの方法

日本での癌死亡率の上昇は、日本人が癌に罹りやすくなったためではなく、長生きになったためだとするエントリーを、ごく一部の読者が、「食生活と癌は無関係だと主張している」と誤解したようだ。もちろん、食生活と癌は関係があるに決まっている。アメリカ合衆国における癌による死亡の原因として、タバコ(30%)と並んで、成人の食事/肥満(30%)が挙げられている*1 。癌に寄与する割合は異なるだろうが、日本でも食事と癌が関係しているのは確か。たとえば、大腸癌の増加の一因に食生活の変化があるとされている。しかし胃癌は減少しており、こちらは塩分摂取量の低下と冷蔵庫の普及による生鮮食料品の摂取などが原因の一つと考えられている。要するに、減った癌もあれば、増えた癌もあるということ。癌全体については、加齢の影響を除けば、日本で癌が増えているとは言えないことは既に示したとおりである。

それでは、具体的にどのような食事を摂ればいいのだろうか。ちまたでは、さまざまな食品が癌を予防すると主張されている。緑茶、コーヒー、アブラナ科の野菜、大豆、カレー、ヨーグルトなどなど。ある種のサプリメントや「酵素」や電解還元水が癌の予防に役立つと主張されることもある。あるいは、喫煙・紫外線・肉食・排気ガス・診断用の放射線・農薬・遺伝子組換え食品・携帯電話・IH調理器・高圧電線・白砂糖・牛乳・水道水・食物添加物・環境ホルモンetc…を避けろという主張もある。これらの主張は一定の根拠があるものから、トンデモなものまでさまざまであるが、いったいどの情報を信用すればいいのだろう?また、食事に限らず、癌を予防するための方法にはどのようなものがあるのか?国立がんセンターがん対策情報センターが、「現状において日本人に推奨できる科学的根拠に基づくがん予防法」をまとめている。以下の表は、■日本人のためのがん予防法(国立がんセンター がん対策情報センター)より引用・作成した。個々の項目に関する詳細や根拠については、■「日本人のためのがん予防法」(国立がんセンターがん予防・検診研究センター予防研究部)にある。



日本人のためのがん予防法
―現状において日本人に推奨できる科学的根拠に基づくがん予防法―
喫煙:たばこは吸わない。他人のたばこの煙をできるだけ避ける。
飲酒:飲むなら、節度のある飲酒をする。
食事:食事は偏らずバランスよくとる。

* 塩蔵食品、食塩の摂取は最小限にする。

* 野菜や果物不足にならない。

* 加工肉、赤肉(牛・豚・羊など)はとり過ぎないようにする。

* 飲食物を熱い状態でとらない。
身体活動:日常生活を活動的に過ごす。
体形:成人期での体重を適正な範囲に維持する(太りすぎない、やせすぎない)。
感染:肝炎ウイルス感染の有無を知り、感染している場合はその治療の措置をとる。


別に特別なことは書かれていない。「わかりきった釣り記事」「既出」などとまた言われそうだけど、知らなかった人もいると思うので、これを機会に知ってもらえれば幸いである。■がんを防ぐための12ヵ条(国立がんセンター がん対策情報センター)も概ね同じ内容だが、「焦げた部分はさける」「かびの生えたものに注意」「日光に当たりすぎない」などが追加されている。がん予防を目的として、食物添加物や白砂糖を避けたり、サプリメントを摂取したりするのは個人の自由であるが、必ずしも科学的根拠に基づいたものではない。なお、当たり前の話だが、「日本人のためのがん予防法」で癌のリスクは下がるが、100%癌を予防できるわけではない。加齢や家族歴などのリスクはコントロールしようがないし、リスクの少ない人だって運が悪ければ癌になる。イチローは、「自分にコントロールできることと、コントロールできないことを分ける。コントロールできないことに関心を持たない。そして、できるだけの準備をする」と言ったそうだ((2008年9月25日付 朝日新聞))。癌になりたくないならば、コントロールできる食習慣や喫煙に注意すればよい。

*1:Harvard Report on Cancer Prevention, Cancer causes & control 7:supple.1 S3-59 (1996)