NATROMのブログ

ニセ医学への注意喚起を中心に内科医が医療情報を発信します。

日本の健康寿命と平均寿命の差

私のことを、「受験生医者」「オカルト医者」と呼ぶブログ「西式甲田療法による介護」が、■どうして日本は癌大国になってしまったのか?の感想を載せてくれたよ(それにしてもコメント欄はおろか、トラックバックもなく、私のブログの感想を述べるにあたって、私のブログにリンクも張ってなければ、URLの提示もない。きっと、読者に私のブログを読ませたくないのであろう)。


■生存寿命と健康寿命*1(西式甲田療法による介護)


受験生医者が初めて自分の説を披露。しかもオカルトよろしく「癌大国であることはむしろ誇りである」と開き直りとも言える狂った説だった。納得。

買い物帰りのおばちゃんが道の途中で喋っている程度の俗説だ。しかもこの俗説、確かに近所のおばちゃんから一度聞いたことがある。

「そりゃ兄ちゃん、医療が良うなって、みんなが長生きすりゃあ、治らん病気の癌で死ぬ人が増えるのはあたりまえでっしゃろ。」

長生きが癌を死因トップに押し上げているという俗説です。

例によってグラフをいくつもとりだし、さもしたり顔に「癌死因トップは長生き」説を説いているが、よく見ればおばちゃんレベルの俗説だった。

これをどこかの医学雑誌に投稿すればよい。検討すらされずに即ボツ。


確かに、「日本の癌死の増加は長寿に由来する」という主張をメインにした論文を医学雑誌に投稿しても没であろうなあ。なぜなら、医学知識のある人にとっては常識だから。「初めて自分の説を披露」とあるが、買いかぶりすぎである。ブックマークにも、「ちょっと考えればわかること」「当たり前だと思ってた」「ここらへんは割と常識にはなってきてる」「ちょっとでも医療に関心があるひとには常識だし、お年寄りは実感としてしっているはず」「正直目新しい話ではない」「さんざん既出。論自体は前から言われてること」「デフォルト。わかりきった釣り記事」などなど、「近所のおばちゃんレベル」のコメントがついた。これらのコメントは正しい。正直、400以上もブクマがつくとは思わなかった。私としては、「食育指導士と称するトンデモさんがいる」、というのがノイエスだったんだけど。それはともかく、「西式甲田療法による介護」では、「健康寿命の長さ自体ではなく、健康寿命と生存寿命の間が重要だ」と主張されている。



健康寿命の意味も全く理解できていません。健康寿命の意味とはなにか。それは健康寿命を生存寿命にいかに近づけるかということです。

「日本は平均寿命(生存寿命)も、健康寿命も世界一である」などと、どこかのおばちゃんの言うようなことを言っている。それがどうしたのかと言いたい。愚かなり。

健康寿命と生存寿命の間が長いか短いか。ここが一番肝心な話なのにである。

健康寿命と生存寿命の間が長いということは寝たきりの人、介護されている人、病気の人が多いと言うことを意味しており、間が短いほどいいのです。

人間はある程度の年が過ぎたら何時死んでもよい。ただし死ぬ寸前まで健康であることが大事だ。ぴんぴんころり。これが大事である。平均寿命が短くても、健康寿命が一致していれば幸せな人生と言える。

健康寿命が言われ出したのは、いかに生存寿命へ近づけるかということ、ぴんぴんころりの考えから出てきたものです。生存寿命が長くても、健康寿命との間が長ければそれは不幸というものです。


「受験生医者」「オカルト医者」がのさばっている日本の医療は間違っている!と主張したい人にとっては、世界一の平均寿命・健康寿命は邪魔なわけだ。なので、健康寿命と平均寿命の差を持ち出したわけであろう。一般的に健康寿命と生存寿命の差が短いのが望ましいことには賛成しないでもないが、それだけを指標とするのもいかがなものかと思うなあ。健康寿命=生存寿命=30歳で健康寿命と生存寿命の差がゼロであっても、幸せな人生だという人もいるだろうが、私は嫌だ。まあ、これは極端な例だろうが。実際に健康寿命と生存寿命の間がどれくらいなのか調べてみた。というか、既に散布図にしてくれている人がいた*2。引用する。




平均寿命と健康寿命・不健康期間(男性)


不健康期間は平均寿命と健康寿命の差のこと。「ここが一番肝心な話」なわけですな。平均寿命と不健康期間にはあまり相関はなさそう。へえ。で、「入院してすぐ手術、しかし手遅れでした*3」の例が多すぎるという癌大国日本ではどうか。不健康寿命は長いのか。平均寿命が1位だから、どのドットが日本かすぐわかる。赤で印をつけてみた。





引用者によって日本を赤く印した


さすがに不健康期間の短さも世界一とはいかないが、なかなかいいセンいっていると私は思うんだけど、どうよ。世界の中では不健康期間は明らかに短い方で、世界一と比較しても1年間ほどしか違わない。なお、不健康期間のみに注目するのは危険だ。平均寿命が短くなってもいいのであれば、不健康期間を短くするのはとっても簡単だ。「寝たきりの人、介護されている人、病気の人」のケアの質を落とすと、不健康期間は短くなる。そのうち、日本の不健康期間は短くなるかもよ。下手したら、健康寿命もだけど。


*1:URL:http://plaza.rakuten.co.jp/hukohitomi/diary/200907240000/

*2:Q&A 健康寿命の国際比較は?、辻一郎(東北大学 大学院医学系研究科公衆衛生学分野)、Q&Aでわかる肥満と糖尿病 3巻4号 Page571-573(2004.07)

*3:こんな例が多いのなら不健康期間は短くなりそうな気がするけどなあ