NATROMのブログ

ニセ医学への注意喚起を中心に内科医が医療情報を発信します。

マネジメントの神様による医療経営セミナー

しばしば、医療機関の経営不振を医療者の怠慢のせいにされる。「単純に経営が下手」「胡座をかいて赤字体質も平気のまま」などと言われたこともある。だが、経営努力をしていないわけではない。以前勤務していた病院では、医局に「先週の病床利用率○○%、目標は××%」と張り紙がしてあり、だいたい目標が95%くらいだった。病床利用率とは大雑把に言うと、ベッド数あたりの入院患者数で、100%に近ければ近いほどベッドが効率的に利用されていることになる。病床利用率が下がると、院長が朝礼ではっぱをかけていた。ちなみに、かの病院では、最近の病床利用率は80%後半で赤字とのことだ。

病床利用率を上げるために空きベッドを少なくすると満床となりやすく、救急患者が「受け入れ困難」になってしまう。これは救急病院だけではなく、慢性期を診る病院の問題でもある。救急病院に空きベッドをつくるには、病状が落ち着いた患者さんにはすみやかに慢性期を診る病院に転院してもらうのが望ましいが、受け入れ病院が病床利用率を下げずに効率的に病床を回そうとすると、「転院は今日ではなく、(現在入院中の○○さんが退院してベッドが空く)来週の水曜日に」などとなってしまいがちである。

こうした日本の医療事情を踏まえて、「世界中の経営者からマネジメントの神様と呼ばれて尊敬を集めてきた」ピーター・ドラッカー博士が「医療経営セミナー」を日本で行ったとき講演の概要を読んでみよう。


■ピーター・ドラッカー氏との関わり(ダスキンヘルスケア)


チューリヒの、とある大学病院の例を挙げましょう。この病院では自主的な標準化に「白内障の手術には9分以上かけない」「産褥後の発熱症状を出さない」「患者の待ち時間をチェックして、呼び出し後に1分以上待たせない」「呼び出しシステムを合理化する」などの項目を設け、7年間かかりましたが院内の変革をおこないました。その結果、以前には病床利用率が40%程度だったものが、80%という常時満室状態までもっていくことが出来たのです。


強調は引用者による。海外では病床利用率80%とは、常時満室状態で成功例として講演できるようなことなのですよ。海外と比較すると、日本の医師に社会的常識がかなり欠落していることがよくわかる。ちなみに、日本で「常時満室状態」とは、以下のような状態を指す。


■産科病床稼働率104%/07年県立中部病院(沖縄タイムス/魚拓)


県立中部病院総合周産期母子医療センターの産科病床稼働率が二〇〇七年は年間104・3%に上ったことが分かった。分娩数は七百九十一件で、うち二割に当たる百七十七件が緊急搬送による受け入れだった。病床が常に満床以上の状態である上、重症事例も増加しており、同センターは、県立北部病院の産婦人科休止で北部地区からの搬送増加や、出産までに病院を受診しない「飛び込み出産」・若年妊産婦の増加―などが背景にあるとみている。


ピーター・ドラッカー氏が神様だとしたら、日本人はサイヤ人で、沖縄県立中部病院総合周産期母子医療センターは、おだやかな心をもちながら激しい怒りによって目覚めたのだろう。