NATROMのブログ

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内服監視システムは直接服薬確認の代用にならないか?

■薬の服用を首輪で監視するシステム:薬に極小磁石を埋め込み(WIRED NEWS)


極小の磁石を埋め込んだ錠剤またはカプセルが食道を通過すると、MagneTraceの磁気センサーが感知し、その情報を無線でコンピューターや携帯電話に送信するという仕組みだ。

この技術は、高齢者に自身の服用状況を思い出させるのに役立つほか、薬の臨床試験で、被験者に指示通りの服用を徹底させ、試験の正確性を向上させるといった用途が期待されている。

この装置は食道を通過した薬のみを感知するようにできており、薬を飲んだふりをして装置の外側を通過させてもわかってしまうため、精神科の患者に薬を確実に服用させる用途にも使えそうだ。


高齢者や臨床試験、精神科の患者については言及されている。その他、結核患者に対するDOTS(Directly Observed Therapy, Short-course, 直接監視下服薬、短期コース)の代用にはならないか。結核の治療は複数の抗生物質を比較的長期間(数ヶ月)使用する。すると、自覚症状のあるうちはちゃんと薬を飲んで、良くなったら飲んだり飲まなかったりする患者さんも出てくるが、これが一番マズイ。耐性菌が生じるからだ。

薬が効かない菌で本人が死ぬ分には自業自得であるのだが、薬剤耐性結核菌を周りにばら撒かれるとたまらない。きちんと内服しましょうと言うのは簡単だが言うだけできちんとできるわけはないので、毎日、医療従事者が服薬を直接確認(DOT:Directly Observed Therapy)するわけだ。Short-course(短期)というのは、たとえば2年間とかいう昔の治療と比べて短期であるという意味。

DOTSに直接関わったことはないが、大変なんだろうなと思う。確認するほうも確認されるほうも。実際には、直接対面して服薬確認を行うのは服薬中断リスクの高い人に限るのだろうが、それでも看護師もしくは保健師がいちいち訪問するコストを考えてみよう。薬を飲むほうも大変だ。毎日毎日保健師がやってきて、目の前で薬を飲んでみせなければならない。数ヶ月間も。

そこで内服監視システムですよ。機械にできることは機械にさせよう。内服が滞って初めて人が動けばいいんだ。そりゃ、首輪して監視されるのは嫌だろうよ。だけど、直接服薬を確認されるのと比べてどちらが嫌かって話だ。私なら首輪するほうがいい。「監視」っていうからなんか嫌な感じがするのであって、「確認」システムって言えばいいんだよ。機械を通して間接的に確認するので、indirectly Observed Therapy, Short-course、略してiDOTSってのはどうだろう。アップル社の製品みたいで。