NATROMのブログ

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ウィキペディアからの転載ページ

最近、古い記事に続けざまにトラックバックがあった。その一つが、■ラクトフェリンがC型慢性肝炎に効果?という記事に対する、■慢性肝炎の解説(URL:http://e-yamai.com/969D90AB8ACC898A/)というページである。このページの一番上に、「慢性肝炎でお困りのあなたのために、慢性肝炎の情報を集めた解説サイトです」とある。Google AdSenseやらアマゾンアソシエイトやらのリンクがたくさん張っているのはいい。問題は、慢性肝炎の情報とやらである。以下に引用する。


慢性肝炎一言コラム:発症後8週以降、6ヵ月未満に肝性昏睡II度以上、プロトロンビン時間40%以下を示すものを指す 慢性肝炎 6ヶ月以上の肝機能異常とウイルス感染が持続している状態関連 発熱や倦怠感を主訴とする患者が血液検査でAST、ALT (酵素)|ALTの上昇を示した場合に疑われる。 肝炎は複数の疾患概念の総称であり、ウイルス性、アルコール性、薬剤性などの鑑別を進めて診断する...

慢性肝炎の説明としては最初の文章が意味不明だ。「発症後8週以降、6ヵ月未満に肝性昏睡II度以上、プロトロンビン時間40%以下を示すもの」というのは、慢性肝炎ではなく、遅発性肝不全(late onset hepatic failure:LOHF)の説明である。その他にも同じページで、慢性肝炎の解説として、「特に日本ではA、B、C型が多い。」とある。A型肝炎は慢性化しない。妙に正確な部分もあると思えば、ぜんぜん的外れなことも書いている。文章の一部で検索したらすぐに原因がわかった。ウィキペディアの肝炎の項目の一部を転載しているのだ。ウィキペディアでは、慢性肝炎ではなく、肝炎の項であるから、急性肝炎、遅発性肝不全、慢性肝炎について書かれている。転載にあたってカットアンドペーストするときに、誤って遅発性肝不全のところを含めてしまったのだ。「特に日本ではA、B、C型が多い。」というのも、ウィキペディアでは、慢性肝炎ではなく、急性肝炎・慢性肝炎を含めた肝炎全体についての記載であった。

想像するにこういうことであろう。アフェリエイトで儲けたい誰かが、ウィキペディアのコンテンツをそのまま複製してページを作成した。ページを作った動機は、慢性肝炎で困っている人への情報提供ではなく、単にアクセス数を稼いで金儲けすることであるから、内容なんてどうでもよい。余計な手間などかけたくない。あまり深く考えずに適当にカットアンドペーストしたわけだ。客を呼びたいので、トラックバックを送りまくる。内容に無関係だとスパム扱いされるので、一応は関係のあるエントリーを選ぶ。特定のキーワードでブログ検索をかければ簡単だ。実際、このページでは100個以上もトラックバックを送っているようだ。慢性肝炎以外にも山のようにページを作成しているので、送ったトラックバック数はかなりの数にのぼるであろう。手作業でやっているのかなあ。

ウィキペディアからの転載は問題があるのではないかと思ったが、一定の条件を満たせば、ウィキペディアのコンテンツは、複製、改変、再配布することができるらしい*1。かのページも、よく見たら、小さなフォントでウィキペディアへのリンクは張ってある。この転載が法的にOKかNGかは分からないが、不適切な転載で誤った医学情報が流れてしまうのは、法的にどうであろうと、倫理的にはよろしくなかろう。転載するならするで、もうちっと気をつけて転載すればいいのに。