NATROMのブログ

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癌・エイズ等難病を治すワクチンは存在していたんだよ!

愉快なページをみつけたので、あとでネタにしようと昨日ブックマークしていたら、世界的に高名な教授まで含め、もう10 usersにブクマされていた。みんなこういうの好きなのか。


■癌・エイズ等難病を治すワクチンは存在していた!- 誘導消失療法(IRT)(★阿修羅♪)*1


もう不治の病は存在しない!?
ガン、エイズ、心臓病をはじめとする数々の難病を99%以上の確率で癒してしまうワクチンが既にこの世に存在する。そう聞いたら、皆さんはどう思われるだろうか? そんな馬鹿なことがあるのかと信じられないに違いない。
もしそんなワクチンが存在したら、病に臥せる人々の数が激減することになり、なんとも喜ばしい事である。ところが、それは、医師、病院、薬の必要性が圧倒的に少なくなることをも意味する。つまり、医薬品業界にとっては大打撃であり、多くの人々が職を失い、大量のホームレスが生まれる等、世界中に計り知れない変化を与える事になる。
オーストラリアの医学博士サム・チャチューワ氏は、そのような大発見をしてしまったが故に、大きな災難に見舞われることとなった。


もはや記憶があいまいなのだが、昔読んだ漫画で(おそらく水木しげる)、どんな病気でも治す薬をつくってしまった青年の話がある。青年は薬を売ろうとするが、どんな病気をも治してしまうと他の薬が売れなくなるために、上司からストップがかかってしまう。青年は、病人の福祉よりも会社の利益を優先する上司に反抗するわけでもなく、「世の中そんなもの」と達観していた(ように記憶している)。これが正義を貫き、あくまで薬の販売にこだわったのであれば、この青年も「大きな災難に見舞われる」ことになったのかもしれない。

「製薬会社や医療者が得る莫大な利益を阻害するため、この画期的な治療法は公的に認められないのだ」という論法は、インチキ医療を売る側が持ち出す陰謀論としては典型的なものである。その変法として、永久機関を売る側が「石油会社の利益を阻害するため・・・」というものがある。いずれにせよ、あらゆる難病に効果があるワクチンや永久機関の効果を公的に証明する証拠の不在を正当化するのに、陰謀論が持ち出されるのである。正しく自然科学を理解している人であれば、何にでも効く薬や永久機関など存在しないことが分かっているのだが、だまされるカモが一定数いれば詐欺は成立するのであろう。

だが、それにしても、「ガン、エイズ、心臓病をはじめとする数々の難病を99%以上の確率で癒してしまう」というのは吹聴も度が過ぎるのではなかろうか。結婚詐欺などでは、話が荒唐無稽であるとかえってうまくいくという話を聞くが、そういうものであろうか。上記リンク先を参照してもらえばわかるが、心電図やCTも提示しており、もしかしたら医学知識のない人なら信じてしまうのかもしれない。言うまでもないことだが、医学的見地から言えば、用語そのほかまったくのデタラメである*2

インチキ医療にありがちな販売サイトへの誘導もなく、いったい誰がどのような目的でこのような手間のいったことをしているのかいささか不思議であったが、どうやらケイ・ミズモリなる自称「ジャーナリスト・翻訳家」のサイトが元ネタだったようだ。むろん、オリジナルではなく海外のネタを翻訳したのではあろう。学研「ムー」の原稿や、徳間書店からの出版の仕事をしているようで、コンノケンイチとの共著もあり、その方面のプロによるものであったという次第。


*1:URL:http://www.asyura2.com/0505/health10/msg/155.html

*2:たとえば、「横隔膜の片側を貫く肝臓癌」の22歳男性の胸部CT画像は、CTではなく胸部単純Xpである。右肺の透過性低下部分はおそらく胸水であり、6週間の経過で消失してもまったく不思議ではない