NATROMのブログ

ニセ医学への注意喚起を中心に内科医が医療情報を発信します。

インチキ医療の実例

■インチキ医療がなくならない理由で述べたように、比較対照試験を行なう努力をしない治療者を信用するべきではない。実例を挙げる。バイオプレートは、下あごのズレを矯正するマウスピースのことで、バイオクリニックの主張によれば、「下あごのズレは、脳に大きなストレスをかけ、それが全身の不調をもたらす原因となっている」とのことである。


■バイオプレートが有効な症例(URL:http://www.biotreat.net/bio-asso/HTM/yuko2.html


  症状項目
受診者数(人)
有効な症例数(人)
割合(%)
  虚弱体質
21 20 95.24
易疲労感
49 46 93.88
耳鳴り
29 27 93.10
歯ぎしり
28 26 92.86
アトピー
13 12 92.31
貧血
13 12 92.31
しびれ感
33 30 90.91
夜尿症頻尿
11 10 90.91
寝つき寝起きが悪い
42 38 90.48
近視
41 37 90.24
不安神経症
19 17 89.47
不眠症
28 25 89.29
自律神経失調症
26 23
88.46
めまい
42 37 88.10
不良姿勢
42 37 88.10
アレルギー性鼻炎
41 36 87.80
運動障害
8 7 87.50
集中力なし
40
35 87.50
蓄膿症
8 7 87.50
流涙
8 7 87.50
易下痢
23 20 86.96

まだまだ続くが割愛。割合(%)を小数点2桁まで出しているところが味わい深い。何にでも効果がある様子からして信頼できそうにないが(参考:■効果×対象疾患<定数)、そもそもが「有効な症例の割合」にはほとんど何の意味もない。「有効な」ではなく「症状の改善があった」と解釈すべきである。ここに挙げられた症状はどれも、自然に良くなったり悪くなったりするものばかりであり、バイオプレートが「有効」だったのか、それとも自然経過で良くなったのか不明だからである。ご丁寧なことに「バイオプレートの6回以上の受診者数にしめる有効な症例の割合」とある。症状の改善がなかった症例は途中で来なくなるので、リピーターに占める症状の改善があった症例の割合が高くなるのは当たり前。科学リテラシー能力のある人から見れば、かような穴だらけのデータは何の価値もないことがわかるのだが、騙される顧客が一定数いれば商売は成り立つのだ。

バイオクリニックのサイトには、「バイオプレート治療はバイオクリニックのみで行っている治療です」とある。そうだろう。まともな医療機関は好んで根拠のない治療は行わないものだ。もしバイオプレート治療に本当に効果があるのなら、きちんとした比較対照試験を行なわないのはなぜだろう。インチキ医療者は「より多くの人を救うために忙しく、研究などやっている暇はない」などと言い逃れるが、これは欺瞞である。効果を証明できれば、多くの医療機関がその治療法を採用し、世界中の人がその恩恵に受けられるのだ(特許をとっているのなら、自分たちだけで治療を行うよりも儲けることもできる)。バイオクリニックは、本当はバイオプレート治療に効果なんてないことを知っている詐欺団体か、治療効果を証明するには比較対照試験が必要であることを理解できないお馬鹿な団体かの、いずれかである。

もう1つ実例。こちらのほうは、「比較対照試験が必要であることを理解できないお馬鹿」にあたることはほぼ確実であると思われる。一部で有名な吉岡英介氏の「水は変わる」というサイトのコンテンツの一部。「『ステロイド軟膏でアトピーは治らない』などという不安をあおるタイトルで記事を書くこと自体,悪徳商法に手を貸し,アトピー克服のための地道な努力を続けている患者,親,それに医療関係者に対する犯罪行為である」という、こなみ氏に反論して、「ステロイドはやめなければならない。これはアトピーから脱却するための第1ステップであり、must である」と吉岡英介氏は主張する。


■キクログ批判 その5 ステロイド問題 こなみ氏を批判する(URL:http://www.minusionwater.com/kikuloghihan5.htm


議論をする前に、まず最近の実例をひとつ紹介しよう。

(中略[吉岡英介氏のアドバイスに従って「なんと、信じられないくらいにツルツルのお肌になりました」という体験談])

以上が経緯である。私の考えは合理的なものであり、私は業として、その合理的な考えや方法を人々に伝えている。私には何も隠すことはないし、天に恥じることもない。
それを、こなみ氏は、「悪徳商法」と非難してやまない。それは、ニセ科学批判者に特有の、個別に見ずにすべてをローラーで押しつぶしにかかる、粗雑で幼稚で無責任な「正義感」の発露である。

体験談には写真が添付されており、なるほど、印象的ではある。しかし、3ヶ月から6ヵ月の乳児であるのなら、乳児湿疹が自然経過で治癒しただけのように思われる。比較対照試験を行なわない限り、吉岡英介氏の推奨する治療法に効果があったかどうかはわからない。注目すべきは、体験談を紹介することが、こなみ氏に対する反論になると吉岡英介氏が思っているところである。顧客を騙すために「わかっててやっている」のではなく、素で、吉岡英介氏は自身が合理的に考えていると思い込んでいるのだ。吉岡英介氏は個別も全体も見ていない。たとえば、ステロイドでしかコントロールできないほど悪化したアトピー性皮膚炎の症例もある。

吉岡事務所では<これから生まれる赤ちゃんのアトピー予防プロジェクト>を実施している(URL:http://homepage1.nifty.com/eskey/)。


■赤ちゃんのトピー予防プロジェクト 説明(URL:http://homepage1.nifty.com/eskey/project.htm


予防3原則に気をつけて育てれば、みなさんの赤ちゃんはアトピーにならずにすむでしょう。
でも、それだけでは、予防法は広まりません。

私たちは、予防3原則に気をつけて子育てをしたお母さん方にアンケート調査をしています。
アンケートは簡単で、赤ちゃんが1才になった時に1回だけ、

「あなたの赤ちゃんは、医師によってアトピーと診断されたことがありますか?」

とお聞きするだけです。
YES あるいは NO とお答えいただくだけで結構です。

その回答を集計すれば
「予防3原則で育てられた赤ちゃんはアトピーになりにくい」
ことがわかるでしょう。

それを学会に報告すれば、アトピーの予防法が広まり、
アトピーになる赤ちゃんは激減するでしょう。ぜひ、ご協力ください。

このような杜撰な研究でアトピーの予防法が広まると本気で考えているのなら、お馬鹿としか言いようがない。対照群をとるという、もっとも基本的なところすら、吉岡英介氏は理解していない。ちなみに、このプロジェクトは少なくとも4年前にははじまっていたのだが、中間報告すらないようだ。現在見られるのは、体験談の羅列だけである。これだけで、十分にインチキ治療と断定できる。