NATROMのブログ

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現代人には酸素欠乏症の方が多い

酸素水(酸素強化水)なるインチキ商品を売っているサイトでの健康相談。医学知識が皆無というか、むしろマイナスと言っていい人が無責任に回答している。酸素水の効能を質問されて、効能はないが酸素の補給になると回答したのち、


■健康相談: 酸素水について


人間は酸素を吸って生きています。酸素がなければ、細胞でのエネルギー生産が行われず、機能しなくなってきます。空気中には酸素が含まれていますので、通常であれば不足しないはずなのですが、実は、現代人には酸素欠乏症の方が多いそうです。
理由は様々ですが、女性に多いのは鉄の不足です。血液中のヘモグロビンが酸素を体中に運んでいますが、そのヘモグロビンを作っているのが鉄分です。これが少ない人は酸素欠乏症になりやすいです。

現代人に酸素欠乏症が多いなど初めて聞いた。単なる鉄欠乏性貧血では低酸素症にならない。臨床上問題となる低酸素症のほとんどは、呼吸性か循環性によるものである。貧血性低酸素症という分類もあるにはあるが、軽度の貧血では循環血液量が増え、低酸素症は代償される。高度な貧血で確かに低酸素状態になることはあるが、酸素の補給では問題の解決にならない。運び手が足らないのに酸素だけ補給してもどうにもならない。よしんば酸素を補給するとしても、酸素水の経口投与では誤差の範囲内。まったく意味がない。

そのあと、テレビの情報番組(どうやら、「あるある大事典」のようである)を元ネタに、根拠の薄い実験の結果を説明。もともとの実験からして信頼おけないが、テレビ番組では酸素を吸っての話で、酸素水の話ではない。酸素を補給できる「量」を考えれば、もとの実験がたとえ正確であっても、酸素水の効果の説明にはならない。



また、酸素に喘息の発作を抑える効果はありませんが、低酸素を防ぐことは期待できます。
ただし、喘息の発作のような緊急の場合は、酸素水ではなく、直接肺に酸素を送り込める酸素吸入器のほうがいいように思います。

「効能はないが酸素の補給になる」→「ごく微量しか補給できないけど、補給になることはなるよね」
「酸素は低酸素を防ぐことは期待できる」→「酸素水が低酸素を防ぐとは言っていないよ」
「酸素吸入器がいいように思う」→「喘息に酸素水を推奨していないから、効果がなかったと文句を言わないように」

と、しっかり責任回避だけはしている。イメージで酸素不足が問題になっているかのように思わせ、効果のない商品を買わせようとしているだけ。願わくば、全国民の科学リテラシーが向上して、インチキ商品を売る会社が潰れますように。


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