NATROMのブログ

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長期的な視点をもとう

悪意はないのだろうけれども、その論理はちょっといかがなものかというサイト。「現在の人口を維持するのに必要な合計特殊出生率は2.08である」なんて説は間違いであり、オカルト理論でデータの歪曲でマスコミは騒ぎすぎなんだそうだ。



■日本人口危機の嘘


1989(平成元年)年の合計特殊出生率が「1.57ショック!」と大ニュースなりましたよね。
だけど実際は日本の総人口、増え続けてるやん!
「現在の人口を将来も維持するのに必要な2.08」なんてマスコミで騒がれているけど、変。
1989〜200年になっても、毎年毎年、何十万人かずつ増え続けてている。
で、そのあとに、グラフで人口が増え続けていることを示している。うん、まあそれは事実だね。でもそれは、平均寿命が伸びていることによる効果だろ。仮に死ぬ人がゼロになったならば、合計特殊出生率が0.01でも、人口は増えるわな。現在のところは、低い合計特殊出生率の効果を打ち消すだけの、死亡率の低下があるけれども、人はいずれ死ぬのである。合計特殊出生率がこのままだと、長期的には日本の人口が減るのは間違いはない。

そもそも、合計特殊出生率ってのは、定義上、一人の女性が生涯に産む子の数なんだから、生まれてくる男女が半々であると仮定すれば、2を切ったら長期的には人口が減ることは避けられない。人口の維持に必要な合計特殊出生率が、2.00ではなく2.08とされているのは、出生性比が厳密には1:1ではないことと、出産可能年齢に達するまでに死亡する女性がいるためである。いずれにせよ、合計特殊出生率が2を切ったままであれば将来的には人口が減るということは、データを持ち出して検証する類のことではなく、合計特殊出生率の定義上自明のことである。

かのサイトの作者が陥っている誤りは、複数の要因によって動くパラメータを単純化したことと、長期的な影響を考慮しなかったことである。日本の人口の増減は、そのときの合計特殊出生率だけで決まるわけではなく、死亡率によっても影響を受けることを考慮すべきであった。ちょうど、「喫煙は肺癌の原因ではない。その根拠は、喫煙率は低下した一方で、肺癌の死亡率は上昇したことである」というトンデモ説と同じような誤りである。喫煙以外の要因が悪化したかもしれないし、それよりも、喫煙率の低下が肺癌の死亡率に反映されるには時間がかかるのだ。

別の論点として、日本の人口が減るのはまずいのかという問題についても一言。減ること自体はそれほどまずくない。人口が6000万人くらいは問題ないだろう。が、急激に減るのはまずい。


「少子・高齢化の危機」って言う人の本音は、「年よりは迷惑だから、さっさと死んでほしい」って本音だろうね。まあ、実は私も本音では、そう思ってる部分もあるけどさ〜。
高齢者の人数が増えるのがいやなの? 寝たきり、ボケなどの要介護者が増えるのがいやなの? 動きの鈍くなったヨボヨボどもがいやなの?
多数の高齢者を少数の生産年齢人口が支えるとなると、個々の負担が大きくなる。労働を効率化しようったって限界がある。少子化対策っていっても、別に際限なく人口を増やそうってわけではない。合計特殊出生率を、たとえば1.9ぐらいにしておけば、長期的には緩やかに人口が減りつつ、かつ、将来の個々の負担がそれほど高くなくてすむ。「年よりは迷惑だから、さっさと死んでほしい」というのはむしろ、「少子・高齢化の危機」を過小評価している人たちの本音なのではないか。