副題が「数字オンチのための投資の考え方」。ジョン・アレン・パウロス著。原著は、2003年。原題は"A Mathematician Plays the Stock Market"。「天才」数学者なんて書いていない。まあ自分では書かないわな。数学者が書いた本だが、とくに難しい数式が出てくるわけでもなく、普通に面白く読める。この方法で儲けたという本ではない。その逆、著者はワールドコムの株で大損こいている。その経験をネタにこの本を書いたのだ。あちこちに出てくるちょっと自虐的なギャグが私は好きだ。
また、この本には数学に関係した話がたくさん出てくる。聞いたことのあるものもたくさんあるが(最後通牒ゲーム、ドル・オークション、株式ニューズレター詐欺、サンクト・ペテルブルグのパラドックス、囚人のジレンマ)、初めて聞いたものもある。「平均的な推測の80%の値を推測するという問題」について紹介しよう(P10)。
参加者がすべて十分に先読みできるほど賢く、また、参加者が他の参加者の賢さを信頼することができるのであれば、全員がゼロを選ぶだろう。「0を選ぶという行動はこのゲームのナッシュ均衡と呼ばれるものになっている」。しかし、現実にはそんなに簡単にはいかない。
人を集めてそれぞれ0から100の間の数字を一つ、皆同時に選んでもらうとしよう。その際、皆が選んだ数字の平均の80%に一番近いと思う数字を選んでもらう。一番近い数字を選んだ人は、賞金として100ドルもらえる。自分がどんな数字を選ぶか、ここでしばらく考えて見てほしい。
人によっては、選ばれた数字の平均は50になるだろうと考え、その80%にあたる40を選ぶだろう。人によっては、他の人たちは40を選ぶだろうと先読みして、その80%の32を選ぶかもしれない。さらに、他の人たちはそういう考えに沿って32を選ぶだろうから、自分は32の80%である25.6を選ぶという人もいるかもしれない。
平均的な推測の80%の値を推測するという、きわめて簡単な状況であっても、実際の推測は困難である。いわんや、実際の株式市場のおいてをや。こうしたちょっとした面白い話をタネにして説明されると、わかったような気にさせられる。だからと言って儲けることはできないだろうけど、読んで面白いからいいのだ。
このゲームをするのが1回か2回だけならば、参加者全員の推測の平均値を推測するのは、論理的にはどの数字であるべきかと考えることであると同時に、他の人の考えや心理状態を読むということでもある。投資家について推測するのが、投資対象について推測するのと同じぐらい、重要である場合がある。そして、投資家について推測することのほうがずっと難しいのだ。