NATROMのブログ

ニセ医学への注意喚起を中心に内科医が医療情報を発信します。

折り合いをつけるのは難しい

「独り暮らしで寂しかった」と救急車を呼ぶほどではないにしろ、何かいい解決法がないかなあと思われる問題について。特に独り暮らしの高齢者に多いのだけど、病気と関係のないことについて、延々としゃべる方がおられる。日ごろ、話相手がいないので、医者を相手にいろいろ話したいのであろう。患者の話をよく聞く医師がよい医師ということになっている。できることならばゆっくりと話し相手になりたいものだ。だがしかし、患者さんはその人だけではないのである。外来では、患者さんが列をつくって待っているのである。

高熱でぐったりしている患者さんが待っているのに、いちいち花壇の手入れの話を延々と聞いているわけにはいかない(花壇の話だけではなく、変化のない慢性の症状「腰が痛い」「目がかすむ」等もそうだ)。うまく終わらせて、次の患者さんを診なければならない。これが自然に出来るのが理想的なのだろうけど、患者さんの中には、なるべく長く話をできるように、話をさえぎられないように意図的に続けて話をしているとしか思えない人もいる。こういう人に気が済むまで話をさせていたら、後の患者さんは30分は余計に待たされることになるのだ。

どっかで折り合いつけなければならない。効率的に外来をまわすためには、余計な話は途中でさえぎらなければならない。丁寧な物の言い方をするものの、基本的には「お前の話は無駄だから聞かない」と言わなければならない。変化のない再診の患者さんより、初診の患者さんにより多くの時間を割きたい。息子の嫁の病気の話は聞きたくない。前医で出された薬の説明は前医に聞いてくれ。「白くて丸い薬」じゃ分からん。みのもんたと俺とどっちを信用するんだ。

折り合いをつけすぎるとクレームがつくことになる。「ほとんど目をあわさずカルテばかり見て、ちょっと話をしただけで『お薬出しときます』で終わり。3分診療だ。ひどい医者だ」。これはあんまりにしても、めっちゃ混んでいるときにはそうしたい気持ちになってしまうこともある。一方で良医たらんとして丁寧な診察をしていると、「いつまで待たすんだゴルァ」とやっぱりクレームがつく。クレーム対応にさらに時間がかかれば悪循環に陥る。どうすればいいんだ。

シビアなのが料金を時間制にするってこと。タクシーのメーターみたいなものを診察室につけておき、患者さんが入ってきたときから料金がカチカチと上がっていく。これはシビアすぎて冗談にしかならない。お話を聞くだけの人ってのがいれば少しは問題が解決すると思う。現在勤務している病院には、医療短大の学生さん(看護師のタマゴ)が研修に来ているのだけれど、学生さんがお話を聞いてくれるだけで、患者さんの満足度がアップしている気がする。いつでも学生さんがいるわけではないので、問診専門のパラメディカルがいればなあ。あるいは、外来ナースを一人増やして、予診をとってくれるだけでもいいのになあ。別にナースでなくても、資格がなくても、話を聞いてくれる人がいるだけでもいいのになあ。