NATROMのブログ

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遺伝子差別する教育評論家

血液型と性格・行動に関係があるとする考え方は根強い。血液型と性格の関係については、科学的な根拠に乏しいことを、遺伝学からみた血液型性格診断で既に指摘してある。占いにとどまるのならまだしも、教育に応用していることを無批判に伝えている記事を発見したよ。


■「血液型」を保育に活用 阿部氏が具体例報告*1(琉球新報)


 阿部氏はまず「日本人は血液型の話が好きだが、教育に生かしてこなかった」と指摘。自身がかかわる保育園で20年前から血液型を保育に活用、効果を挙げていることを具体的事例を基に説明した。
 これまでの調査で、血液型と園児の行動様式に因果関係があることが分かったと指摘。教室内で自由に座らせると、B型の子は「先生の前に」、A型の子は「窓際や廊下など端の方に」、O型は「真ん中で群れになって」、AB型は「一番後ろ」など血液型により顕著な違いが表れたという。
 O型は肩をなでるなどのスキンシップを好むなど、それぞれの血液型に特性があり、それらを活用することで園児一人ひとりが楽しく園生活を送れるようになったと成果を披露した。

阿部進氏は教育評論家であるとのこと。テレビ番組などの元ネタになっているようだ。「これまでの調査で、血液型と園児の行動様式に因果関係があることが分かった」とあるが、こうした調査では容易にバイアスが入り込むことは既にわかっている。たとえば、血液型と行動に関係があるという思い込みが、園児が予想通りの行動をとったことのみを記憶してしまう認知バイアスなど。他にもいろいろある。どのようなバイアスがありうるのか、そのバイアスを排除するにはどのように実験をデザインするべきなのか、を考えることは、よい頭の体操になる。

バイアスを排除した研究はけっこう手間がかかるのだが、阿部氏はそこまでしているのだろうか。もししているというのなら、私立幼稚園連合会九州地区会などではなく、きちんとした科学雑誌に発表するべきだ。数万あるヒトの遺伝子のうち、たった一つの遺伝子が行動様式に顕著な違いをもたらしている!NatureやScienceが狙えると思うぞ。でも、阿部氏はバイアス入りまくりの粗雑な研究しかしてしていないよ、きっと。自然科学の素養もなさそうだし。

付け加えるならば、血液型を利用した保育の問題点は、科学的根拠に乏しいことだけでなく、本質的には遺伝子差別に他ならないということだ。「個人の遺伝情報を保育に活用、効果を挙げている」と書き直したらよくわかるだろう。よしんば、ある遺伝子が行動に影響を及ぼしているとしても、その情報を利用することの是非は厳しく問われなければならない。阿部氏はいいことも言っている。


阿部氏は血液型だけでなく、子どもの行動をじっくり観察しそれぞれの個性を把握すれば、個々に応じた接し方が可能となると指摘し「一人ひとりの生徒にあった対応をすると、みんなの先生ではなく、わたしの先生と思うようになる」と特性に合わせた接し方の大切さをユーモアを交え紹介した。

「子どもの行動をじっくり観察」するのであれば、はじめから血液型を保育に活用するなど必要なかろうに。個人を見ずに、その個人が属している集団(人種とか性とか国籍とか血液型とかね)のみを見る事が差別のはじまりなのだ。

*1:URL:http://www.ryukyushimpo.co.jp/news01/2004/2004_08/040806m.html