NATROMのブログ

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KDN氏の主張はまったく意味不明で議論するに値しない

KDN(@KDNuc)さんは、甲状腺がん検診について何か述べたがる人の中で、もっともわかっていらっしゃらない部類です。議論する能力に欠けているだけではなく、議論の途中で自分のコメントを削除したこともあり、誠実さにも欠けています(■コメント欄での警告の記録 - NATROMのブログの「KDNuc氏は議論の最中に何の断りもなく自分のコメントを削除することによって、健全な議論を著しく阻害したため」あたりを参照)。議論するのは無駄だと思います。


今回の「対象集団の生涯の累計で8,000人超もが甲状腺癌と診断されることになりそうですが、実際に診断されているペースは遥かに低そうです」という主張も、何が言いたいのかわかりません。


「対象集団の生涯の累計で8,000人超もが甲状腺癌と診断されることになりそう」とする根拠が不明ですし、よしんば「対象集団の生涯の累計で8,000人超もが甲状腺癌と診断される」ことを受け入れたとして、だから何が言いたいのかも意味不明です。

「下記の概算」とされるリンク先ではKNPさんという方*1が「福島の対象集団で癌と診断される最終的な積算数」を計算していらっしゃいますが、その計算が意味不明です。生涯における累積がん罹患リスクを計算したいのであれば、すでにがん統計に*2
あります。日本人男性の生涯がん罹患リスクは0.6%、女性は1.7%です*3

男女計の大雑把計算なら1%でいいでしょう。10万人当りだと1000人ですね。福島県の原発事故当時小児であった40万人だと4000人です。もろもろ条件が変わらず40万人の小児を検診なしで一生涯観察すると4000人ぐらいが甲状腺がんと診断されます。多くが50歳から70歳ぐらいの間で診断されることでしょう。

KNPさんは「罹患の積算は3人×70年=210人(生涯、10万人当り)」「210人×40万/10万=840人(生涯、実数)」としていますので、5倍ぐらい差がついています。そもそも、「これに対して現状までの実際の癌診断数は、健診外で癌と診断されたケースを含めても300人程度で、新たに癌と診断されるペースも落ちています」という主張が全く意味不明です。だから何?何が言いたいのです?

まだ10年ぐらいしか経過を見ていないんですよ。被ばくによる多発があろうとなかろうと、過剰診断がどれぐらいの割合であろうとなかろうと、生涯に甲状腺がんと診断される人数よりまだずっと少ない人数しか診断されていないのは、別に不思議でも何でもありません。このことから何も言えません。受診割合がどうとかいう以前の話です。

生涯がん罹患リスクも知らない一知半解の人物の行った信頼性の低い意味不明の推計を使って、やはり過剰診断やがん検診の疫学について不勉強の人物が意味不明の主張をしただけであると、私はみなしています。


KDN氏は各年代で発生率が一定であるとでも思っているのだろうか(2022年4月12日追記)。



3巡目と4巡目でがんの診断は約20人/年だったとのこと。まあそのくらいなのだろう。KDN氏は「がんの診断は約20人/年でなされていくので、生涯でがん診断は8000人になろうはずがない。400年ぐらいかかる」と言いたいようだが、誤りだ。KDN氏の誤りは、ずっと約20人/年という発症率が続くと根拠なく仮定していることに由来する。甲状腺がんの発生率は小児・青年期は低い。検診だと診断が前倒しされるが、それでも剖検における年齢別有病割合の知見を踏まえれば、中高年にかけて発症率は上がってくることは容易に予想できる。KDN氏は私ことNATROMが「実データをよく確かめないでフワッとしたことしか言わない」とおっしゃっているが*4KDN氏は実データであるところの生涯がん罹患リスクも年齢別のがん発症率も確かめていないのだ。論外。

そもそも、「ざっくり20人/年」という発症率が続くとして、がん診断が4000人になるには200年かかる。4000人というのは実データである生涯がん罹患リスクから計算した、福島県小児集団を検診なしで一生涯観察して診断される甲状腺がんの数である。ずっと約20人/年という発症率が続くと仮定すると、福島県の小児集団は甲状腺がんリスクが増えるどころかむしろ半分以下に減っていると結論しなければならなくなる。そんなわけあるかい。KDN氏は実データを確かめないどころか、論理的に考える能力にも欠けている。



「受診割合に関わらず常に過剰診断が90%になる」と私が主張しているでもKDN氏は思っているのだろうか(2022年4月26日追記)。


KDN氏から以下のようなブックマークコメントがついた*5


「検診なしで一生涯観察すると4000人ぐらい」とすると、過剰診断が90%にもなるには総計で4万人もが診断されねばならないですね。受診率が著しく下がっている中、どれだけ現実味があるでしょうか?

KDN氏以外に理解していない人がいるとは思えないが、一応説明しておく。検診の受診率が下がれば過剰診断は減るし、甲状腺がんと診断された中での過剰診断の割合も減る。検診をやめれば過剰診断は、偶発的発見由来ぐらいになり、過剰診断の割合はずっとゼロに近くなる。そのことが、KDN氏にとっては私に対する反論になると思っているらしい。もしかしてだが、私が「受診割合に関わらず常に過剰診断が90%になる」と主張していると、KDN氏は考えているのであろうか。このまま検診を続けるとさらに多くの過剰診断が生じるから検診を中止しろ、少なくも検診の利益と害について正確な説明をしろって言ってんだよこちらは。検診を止めても過剰診断の割合が90%のままであるわけないだろ

*1:KDN氏と同一人物なのではないかと私は考えていますが確信は持てない

*2:https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html

*3:この数字は日常診療において偶発的に発見されたがんを含みます。よっていくぶんかの過剰診断も含みます。ただこれを言い出すときりがないのでとりあええず無視します

*4:https://twitter.com/KDNuc/status/1513242095867162628

*5:https://b.hatena.ne.jp/entry/4718700706069527810/comment/KDNuc