NATROMのブログ

ニセ医学への注意喚起を中心に内科医が医療情報を発信します。

澤田石先生へのお返事(2018年4月20日)

■内科勤務医 @NATROM 医師とのやり取りの記録 on #HPVワクチン その三(2018/4/17) — Twishortもしくは■澤田石先生へのお返事(2018年4月16日)のコメント欄への返事です。

まず、「伊藤氏(「医療ジャーナリスト」の伊藤隼也氏)のトンデモ発言」について尋ねても、澤田石先生の見解は明らかにならなかったことを確認しておきます。「数年前にインフルエンザワクチンを打った直後にインフルエンザになったからインフルエンザワクチンやめた」といった、非専門家でもすぐにわかる、明らかに医学的には妥当ではない発言に対してもです。

澤田石先生は、伊藤氏を「子宮頸がんワクチンについての言説には、私はすべて賛成してます」「全体として信用してます」とまで言っておきながら、伊藤氏の「トンデモ発言」については言を左右して批判どころが、評価することすら避けるのです。これはきわめて無責任な態度であると考えます。「味方だから間違っていても批判しないのだ」というかつての私の指摘が正しかったかどうか、澤田石先生の今回の回答を読んで読者は判断できるでしょう。


澤田石先生からのご質問への回答

次に、澤田石先生からのご質問にお答えします。

>Q1: HPVワクチン接種後の「未だに日常生活ができない」ような有害事象は何人に一人と推定しますか? (2017/2/19)

正確な推定は困難ですが、澤田石先生の推定のように数万人に1人といったところではないかと考えます。


>Q2: 2万人に1人が #HPVワクチン 接種後、未だに日常生活に支障をきたしていると仮定すると、そのような頻度の有害事象を検出できる臨床試験の論文はあるのか? (2017/1/5)

既にお答えしていますが*1、もう一度お答えいたします。それほどの規模のランダム化比較試験はないと考えます。観察研究に頼るしかないと思われます。


>Q3: HPVワクチン接種後、五年以上経過しても未だに日常生活に支障有りの有害事象が「5万人に1人」だとの推定が真と仮定します。その頻度ならば、もしも貴方に12才の娘さんがいたら接種しますか?

12歳だと既にある程度自分で判断ができますので私が決定することではないですが、仮に娘にアドバイスを求められたら接種を勧めます。5年以上も続く日常生活に支障有りの有害事象が「5万人に1人」だとしても因果関係は明確でなく、一方でHPVワクチンから得られるHPV感染や前がん病変や浸潤子宮頸がんや子宮頸がん死の抑制といった利益は数十〜数百人に1人に得られるからです。HPV感染や前がん病変の抑制は確実、浸潤子宮頸がんや子宮頸がん死の抑制もきわめて合理的な推測です。



>Q4: Q3の頻度が真とした場合、厚労省は積極的推奨を再開するべきと考えますか?

Q3の頻度が真であろうとあるまいと、必ずしも積極的推奨を再開しなければならないとは私は考えていません*2。HPVは麻疹と違って空気感染しません。情報提供と接種機会の提供に注力したほうがよいのではないかと個人的には考えます。因果関係があろうとなかろうと、広くワクチンを接種すると重篤な有害事象は必ず起こります。「よくわからないけど接種推奨されているから受けた」ような人に重篤な有害事象が起きたとき、不幸が再生産されるようなことになりかねません。



>Q5: Q3 and Q4 にYESと回答した場合、「HPVワクチン接種後、五年以上経過しても未だに日常生活に支障有りの有害事象」が何人に1人なら、Q3 and Q4 にYESと回答しますか?

質問の意味がわかりかねます。ワクチン接種を推奨する有害事象の頻度の閾値をお尋ねになったものだと推測いたしますが、「Q3 and Q4 にYESと回答した場合」「Q3 and Q4 にYESと回答しますか?」のどちらかが、「Q3 and Q4 にNoと回答した場合」「Q3 and Q4 にNoと回答しますか?」のおつもりだったのではないでしょうか。


>Q6: HPVワクチン接種者と非接種者との症状に関する統計学的解析は、有害事象発生患者の症状群(クラスター)でなされないと意味がないとは考えませんか?

いいえ。■「個々の症状ごとに比べても意味がない」という批判の解説において詳しく論じました。HPVワクチンが複数の症状を呈する「HPVワクチン関連神経免疫異常症候群」といった重篤な疾患を引き起こしているとしたら、単一の症状しか呈さない軽症例(いわば「HPVワクチン関連神経免疫異常症候群・不全型」)が多く潜んでいるのではないか、というのは合理的な推測です。



>数値のことはともかく、症状群・症候群として疫学的・統計学的に解析する必要はないと思いますか?

異なる質問は異なる項目でしていただきたいです。「症状群(クラスター)で解析はなされないと意味がないか?」という質問と「症状群(クラスター)での解析は必要ないか?」という質問は異なります。もちろん、症状群(クラスター)での解析も必要です。両方やればいいのでは?



>Q7: 名古屋市の調査と厚労省の研究班による調査のどちらも、症状群(クラスター)としての統計学的解析はなされてません。基本的に個々の症状についてのみ解析されてます。そのような手法は科学的に妥当とみなせるでしょうか?

みなせます。■「個々の症状ごとに比べても意味がない」という批判の解説を参照のこと。横断研究ゆえの限界はありますが、どのような研究にも何らかの限界はあります。



>Q8: 拙文 『それでも娘に受けさせますか? 子宮頸がんワクチンが「危険」な理由』⇒ ironna.jp/article/3842 について、NATROM先生のコメントをお願いしました。コメントは頂いておりませんし、そのことは非難などしません。
>一つだけ質問したいのは、どんな生物学的因子を有する女子は有害事象発生確率が高いのか、製造販売する製薬会社+厚労省+関連学会で、事後的に研究する必要性は認めないでしょうか?

認めます。というか研究していたでしょう。有害事象群に特定のHLAのアリルが多いという話を覚えておられませんか。ただ、アリル頻度とアリル保有割合を混同するというきわめて初歩的な誤りがあったことはきわめて残念でなりません。

『それでも娘に受けさせますか? 子宮頸がんワクチンが「危険」な理由』は読みました。「HPVワクチン接種後症候群」とされている患者群が「新たな疾患」であると示唆されるとありますが、その根拠がほとんど述べられていないのは残念です。述べられていたのは、「不随意運動、痙攣、幻視、幻聴、妄想、暴言」等がほとんどみられないからCFS/MEではないということだけです。

CFS/ME以外にも、「HPVワクチン接種後症候群」で見られる症状を呈しうる疾患は複数あります。2016年1月に既に指摘してます。■澤田石先生に対する反論(2016年1月30日)の「既存の疾患が十分に除外されていないのではないか」あたりです。私の記憶の限りでは、澤田石先生からの反論はありませんでした。『それでも娘に受けさせますか? 子宮頸がんワクチンが「危険」な理由』はその後に書かれたものです。この時点で、澤田石先生は私の指摘を理解する能力に欠けているか、もしくは、私の指摘を無視する不誠実であるかのどちらかであると私は判断しました。『それでも娘に受けさせますか? 子宮頸がんワクチンが「危険」な理由』が、たとえば近藤誠氏の著作のように広く読まれているのであれば読者のために反論する必要がありましたが、私の観測範囲ではほとんど反響がなく、その必要もありませんでした。


澤田石先生への質問

さて、私からの質問です。Q1とQ3は、かつて澤田石先生に質問して、お答えをもらっていない数多くの質問の一部でもあります。

Q1. 「HPVV接種後症候群」が「新しい疾患」であると確信しておられるようですが、たとえば、Anti-NMDA Receptor Encephalitisを含む辺縁系脳炎関連疾患、Psychogenic nonepileptic seizures、Pseudopseudoseizures、Psychogenic Movement Disorders、Complex regional pain syndromeといった疾患の除外はできていますか?できていたとして、どのような方法で除外しましたか?

Q2. 5万分の1という頻度でHPVワクチンが「新しい疾患」を引き起こしているとしたら、HPVワクチン接種が継続されている諸外国で注目されていない理由は何ですか?

海外でもHPVワクチンに対する反対運動があることは存じています。しかしながら、その運動は残念ながら反ワクチン勢力と強く結びついています。こうした運動は、仮にワクチンと有害事象にまったく因果関係がなくても起こります。澤田石先生は(驚くべきことに)ご存じないかもしれませんが、たとえばウェイクフィールド事件の教訓から明らかです*3

ワクチン接種後に重篤な有害事象が起きたとき、上記したようなさまざまな鑑別疾患を十分に熟知している医師は安易に「新しい疾患」とは断定しません。一方で、さまざまな鑑別疾患を知らない能力の低い医師は「新しい疾患」と断定し、結果として患者さんに不利益をもたらします。失礼ですが、私は澤田石先生を能力の低い医師だとみなしています。なにせワクチンの害を議論しようかってのに、ウェイクフィールド事件を知らない、興味もないというのですから。

本当に5万分の1という頻度でHPVワクチンが「新しい疾患」を引き起こしているのなら、諸外国でとっくに気づかれて、大きな話題になっているはずです。国の方針として積極的勧奨の中止にまで至ったのは日本だけです。よって、ワクチンが「新しい疾患」を引き起こしているとしても頻度はずっと低いか、あるいはほかの鑑別疾患に紛れて気づかれにくくなっているか、そもそもワクチンとの因果関係は乏しいか、といったところではないかと考えます。

それとも、世界中のほとんどの専門家が、「超国家企業群から莫大な資金援助を受けている」*4ため、「新しい疾患」に対して知らんぷりを決め込んでいるとでもおっしゃいますか。


Q3. ワクチンとの因果関係がない、もしくは、きわめて稀と【確定】した場合、ワクチンの積極的接種の中止によって将来の子宮頸がんの罹患や死亡が増えることについて、澤田石先生はどうお考えになりますか。本当に「医師として最善を尽くして」いますか?