過剰診断は医療過誤とは異なる
なとろむ氏を信じましょう。済みませんでした。
— 各務裕史 (@kuninosaiseiwo) 2018年3月29日
さて、とすると、
26日なとろむ:「謝らなければならないこともあるでしょうし、そうでないこともあるでしょう」
何を謝ろうとされたのでしょう?
「甲状腺癌患者が別の原因で死亡したらそれは過剰診断だったという事」
貴方が引用したのは何故?
「謝らなければならないこともあるでしょうし、そうでないこともあるでしょう」という私のツイート*1は「脳梗塞で死亡⇒過剰診断でしたと謝らなければならない?」という各務裕史さんのツイート*2を受けてのものです。
無症状で甲状腺がんと診断された患者*3が、甲状腺がんの治療を行わず、かつ、甲状腺がんの症状が出る前に、別の原因(たとえば脳梗塞)で死亡したとき、その甲状腺がんの診断は定義上、過剰診断です。その甲状腺がんの診断をした医師は、「謝らなければならないこともあるでしょうし、そうでないこともあるでしょう」。
謝らなければならないケースはたとえば、「80歳の脳梗塞ほか死亡リスクの高い人に、本人から希望もなかったのに検診と称してわざわざ甲状腺エコーを行い、小径の甲状腺がんを見つけて細胞診を行って診断を確定した。治療を予定していたがその前に脳梗塞を起こして死亡した」ケース。これは治療しても予後は改善させない一方で、がんと診断されることで不安を喚起し、細胞診などの無用なリスクを負わせています。ヤブ医者。検査してお金儲けをしたかったか、何も考えていないのか、どちらか。
謝らなくてもよいケースはたとえば、「50歳の甲状腺機能亢進症患者に甲状腺エコーを行ったところ、偶発的に小結節が見つかった。十分なインフォームド・コンセントを行い、患者の希望もあって細胞診を行ったところ、甲状腺がんと診断が確定した。ガイドラインにしたがって手術はせずアクティブサーベイランス(監視療法)を行っていた。55歳のときに予想外の脳梗塞が起こって患者は死亡した」。これは標準的な医療です。がんは診断されると治療介入されることが一般的なので、「この症例は確かに過剰診断であった」と断定できるケースはまれですが、これはそのまれなケースです。アクティブサーベイランスや高齢者に対するがんの治療の差し控えは今後増えると予想されますので、将来はまれとは言えなくなるでしょう。
この2例の中間的なケースもいくらでもあります。「まあ謝るべきとまでは言えないものの、もうちょっとうまくやればいいのによ」という感じ。福島県の小児に対する甲状腺がん検診がまさしくそうです。ポイントは過剰診断は医療過誤とは異なることです。
ツイッターではときに曖昧な用語を使うこともある。とくに相手が使った場合は。
「甲状腺癌患者が別の原因で死亡したらそれは過剰診断だったという事」を引用した理由は、各務裕史さんがそうおっしゃったからです。「別の原因で死亡したらそれは過剰診断だったという事」になる人は、「甲状腺癌患者」ではなく*4「検査を受ければ甲状腺がんと診断されるであろう状態の人、あるいは、甲状腺がんと診断されたが治療は受けていない状態の人」ですが、面倒くさいでしょ?
それとも、いちいち厳密な言葉遣いを要求したほうがよかったですか?というか、そのほうがよさそうなのでこうして字数制限のないブログで書いています。ツイッターでは無理です。
検診の是非は過剰診断でなく検診の利益不利益で判断すべき
「発症に10年以上かかる癌の検査でも躊躇します。
— 各務裕史 (@kuninosaiseiwo) 2018年3月29日
甲状腺検査などは一生しません」
とツイしましたが、過剰診断の定義とは無関係です。
私が定義するなら別原因死亡は除外しますが、既に定義が決まっているのなら仕方ない
しかし、検診の是非は過剰診断でなく検診の利益不利益で判断します
「検診の是非は過剰診断でなく検診の利益不利益で判断すべき」というのは正しいです。ずっと私はそう主張しています。よしんば仮に、過剰診断をゼロにできたとしても、不利益が利益を上回る検診をすべきではありません。そして福島県の小児に対する甲状腺がん検診は、おおよそ利益が不利益を上回るなんてありそうもない検診です。
過剰診断が多く含まれているならそれだけで不利益は甚大です。よしんば過剰診断が(ゼロではないであろうが)少ないとしても、かなり長いリードタイム(「診断」から「治療介入しなかったときの発症」までの期間)があるわけです。各務裕史さんは、死亡まで「60〜70年の長期間」を見込んでいましたよね。
前倒しでがんの診断をしてしまうのは、過剰診断ほどではないにせよ、かなりの不利益なんです。子供のころにがんと診断され、場合によっては手術され、あるいはアクティブサーベイランスされるとしても定期的に検査を受け、進行や再発や転移はしていないかと不安に悩まされるわけです。
それで小児に対する甲状腺がん検診の利益はどれだけですか?「60年後の甲状腺がん死亡を減らすかもしれないし、減らさないかもしれない」というぐらいですか。検診の不利益に見合うだけの利益ですかね。一人の甲状腺がん死亡を減らすために必要な検診数はどれぐらいですか?もともと甲状腺がんは予後がよい疾患なので、仮に死亡を減らすとしても検診介入の利益は小さいのです。
「検診を受けることによる安心感」を利益とみなす場合もありますが、一般的には検診の不利益に見合うものではないし、そもそも安心感を利益をみなすこと自体に大きな問題があります。気が向けば後日言及するかもしれません。
「甲状腺がん発見は全て過剰診断によるもの」と誰が主張しているの?
なとろむ氏の本垢かと疑うようなツイ有難うございます
— 各務裕史 (@kuninosaiseiwo) 2018年3月30日
別死亡を含める過剰診断率をさんざん福島に持ち込んで甲状腺癌発見は全て過剰診断によるものとの様な状態を見るにつけ、被診断者が別原因で死亡すると過剰診断だとのツイが幼稚と指摘
この幼稚な話に外人医師の力を借りる必要がありますか?
誤解に基づいて誰も言っていないことに反論するのはなんら議論に貢献しません。「なとろむ語録」を「捏造」したのと同じく、各務裕史さんが勝手に「甲状腺癌発見は全て過剰診断によるものとの様な状態」だと誤解しているだけではないですか?「どなたか「甲状腺癌は全て過剰診断」などという説を主張したのでしょうか?」*5と2018年1月にお尋ねしましたが、各務裕史さんからは問いに対するお答えはありませんでした。その代わりに「全てが過剰診断でないなら死亡率が低減しないなどとデマツイをするのでしょうか」という的外れなお返事がありました。「過剰診断が仮にゼロであっても、がん検診による死亡率が減少しないこともありえます」*6とお返事したのですがそれにはリプライがありませんでした。現在では、「検診の是非は過剰診断でなく検診の利益不利益で判断すべき」ということがご理解できているようで何よりです。
*1:https://twitter.com/NATROM/status/978406994020200448
*2:https://twitter.com/kuninosaiseiwo/status/978211877363712000
*3:この場合は診断されてしまったから患者です
*4:なぜなら甲状腺がん患者の中には治療を受ける人もおり、治療を受けた以上は、甲状腺がんの症状が生じる前に別の原因で死亡しても、過剰診断だったのか、治療のおかげで症状が出なかったのか区別がつかないから