がん検診における過剰診断について、ツイッターで各務裕史さんという方とやり取りしています。私の立場は2015年に■「過剰診断」とは何かで説明した通りです。過剰診断についてはしばしば誤解されていることがあり、ツイッターでやり取りすることで誤解を解消したり、どのような誤解が起きやすいか情報を収集できたりします。ただ、ツイッターでは文字制限がありますので、ここで文字制限なく説明を試みたいと考えます。
5連ツイ有難うございます
— 各務裕史 (@kuninosaiseiwo) 2018年3月26日
なとろむ語録
?甲状腺癌患者が別の原因で死亡したらそれは過剰診断だったという事
?各務裕史さんがどの部分でつまづいているのかを確認したい
?「各務裕史さんが過剰診断についてまったく理解していない」と
続
なとろむ語録として、「甲状腺癌患者が別の原因で死亡したらそれは過剰診断だったという事」とありますが、私はそのような表現はしていません。一般的に、がんと診断されると治療介入されてしまうので、「治療介入前に別の原因で死亡したがゆえに過剰診断であることがわかる」がん患者はかなりレアケースです*1。「別の原因で死亡したらそれは過剰診断だった」というのは、主にがんと診断されないままの人を指します。成人では人口の0.5〜2%ぐらいが「がんと診断はされていないが検診をすると甲状腺がんと診断されてしまう人」です。そういう人は「がん患者」ではありません。
5連ツイ有難うございます
— 各務裕史 (@kuninosaiseiwo) 2018年3月26日
なとろむ語録2
?検診⇒手術⇒過剰診断でない・・これも何度かご説明したと思うんですが
?甲状腺がんの症状が出る前に他の原因で死亡する人の甲状腺がんを診断することは過剰診断
?を何度もツイされ、定義間違いに気づいて?に変えられた。
その間、何日と何ツイを要され
よって、「(1)を何度もツイされ、定義間違いに気づいて(5)に変えられた」というのも各務裕史さんの勘違いです。勘違いというか言いがかりです。「何度もツイ」したのなら、そのツイートを具体的に引用すべきでしょう。
?を何度もツイされ、定義間違いに気づいて?に変えられた
— 各務裕史 (@kuninosaiseiwo) 2018年3月26日
その間、何日と何ツイを要され、??の様な自分の責任を各務のせいにする無駄な不遜を犯していた事を肝に銘ずるべきです
?に至っては今回が初めてのツイですよ
誰でも思いこみの短絡は有る、気が付いた時認めるだけでいいの、
「(4)に至っては今回が初めてのツイ」という主張は誤りです。たとえば、2018年3月18日に「手術とは関係ありません。というか手術してしまうと過剰診断かどうかわからなくなります」とご説明しています*2。
なとろむ:甲状腺がんの症状が出現する前に他の原因で死亡する人の甲状腺がんを診断することは過剰診断です
— 各務裕史 (@kuninosaiseiwo) 2018年3月27日
高野説では検診で診断された癌の中に将来発現するものとしないものがあるとか、50年後に発現する癌の診断も過剰診断?
そもそも別原因で死亡云々は過剰診断論議に無関係ですよ
「発現」の意味がわかりかねますが、高野説に限らず「検診で診断された癌の中に将来症状を呈するものとしないものがある」というのは正しいです。「50年後に発現する癌の診断も過剰診断?」については、「50年後に症状を呈する癌の診断」は定義上、過剰診断ではありません。「そもそも別原因で死亡云々は過剰診断論議に無関係」というのは誤りです。というのも、症状を呈する前に別の原因で死亡するような病気を診断することは過剰診断だからです。そもそも、「別原因で死亡」した人を病理解剖すると前立腺がんや甲状腺がんが多く見つかる、という事実が過剰診断の根拠の一つであることを思い出せば、「別原因で死亡云々は過剰診断論議に無関係」という各務裕史さんの主張が明確に誤っていることがわかります。
がん検診における過剰診断についてよく引用されるキーとなる論文がWelch and Black(2010)*3です。この論文の図に「がんが症状を引き起こすサイズ」になる前に「他の原因で死亡」するような場合が示されています。
「甲状腺癌患者が別の原因で死亡したらそれは過剰診断だったという事」が「幼稚な認識」とのことですが、Welch and Black(2010)にある、過剰診断の説明でしばしば引用されるこの図の"Death from other causes"の意味をご解説してください。 pic.twitter.com/wkpxPbpRrL
— なとろむ (@NATROM) 2018年3月24日
「別原因で死亡云々は過剰診断論議に無関係」だとしたら、いったいなぜ、Welch and Blackはわざわざこの図を掲載し、多くの専門家が引用したんでしょうか?各務裕史さんに対して「Welch and Black(2010)の内容をご理解していますか?」と複数回おたずねしましたがお答えがありません。もしかしたら英語がわからないのではないかとも考え、「"Death from other causes"の意味はわかりますか?」とも複数回おたずねしましたがお答えがありません。
台風様
— 各務裕史 (@kuninosaiseiwo) 2018年3月28日
「甲状腺癌患者が別の原因で死亡したらそれは過剰診断だったという事」
これはなとろむ氏のツイの一部を私が引用した物をなとろむ氏が引用して反論ツイした物、「」内に付き彼のクレームはなし
その基となったなとろむツイは消されたのか見つからず
彼は2回以上は同じツイして来ていました
「その基となったなとろむツイは消されたのか見つからず」とありますが、各務裕史さんとのやり取りのツイートを消したことはありません。というかごく些細な誤字訂正以外では私は原則としてツイートは消しません。訂正する場合は、リプライか引用RTで、「私は××と主張していたがそれは誤りで、正しくは○○でした」などと書きます*4。
理由の第一には議論に対して誠実でありたいからですが、そうでなくても、ツイッターに限らずネットで発言したものは記録されるものです。都合が悪いから過去の発言を断りなく削除するという態度はいつかばれます。そのようなみっともないことになりたくありません。
なとろむ様
— 各務裕史 (@kuninosaiseiwo) 2018年3月29日
下図「甲状腺癌患者が別の原因で死亡したらそれは過剰診断だったという事」
これは貴方からのツイを引用したのですが、その元ツイが見つからず台風氏から私に証明を要求され困惑しております。「」の部分は貴方のツイとは異なり、私のねつ造であったか、お教え下さい。 pic.twitter.com/T80IuUf12j
というわけで、「甲状腺癌患者が別の原因で死亡したらそれは過剰診断だったという事」とは私は発言しておりません。各務裕史さんによる捏造もしくは誤解であると思われます。たぶん後者です。「捏造」は意図的な意味合いがありますが、各務裕史さんは過剰診断について十分な理解をしておらず、よって、私が言ってもいないことを言ったと勘違いしたのではないかろうかと。自分がよくわかっていない分野については、安易に「相手は××と言った」などと主張してはいけません。相手の言っていることを自分が正確に理解しているとは限らないからです。
検診による癌診断が有益かどうかの観点で見ると
— 各務裕史 (@kuninosaiseiwo) 2018年3月29日
?老衰まで症状が出なかった⇒無益な検診
?診断後、症状が出る前に別原因で死亡⇒検診が無益か有益か判別不能
?検診後発症⇒有益な検診
?を過剰検診に含めるために過剰診断の割合を多く見せてしまう
福島の検診が有益である事願っています
老衰まで症状が出ないがんを診断することが無益であるのは正しいです。「症状が出る前に別原因で死亡」も過剰診断なので無益です。「検診後発症⇒有益な検診」というのも誤りです。「検診をしなければそのうち症状を呈するようながんを診断すること」は、定義上、過剰診断ではありません*5が、それと検診が有益であるかどうかは別問題です。検診が有益であるためには、予後をいいほうに変えることが必要です。「検診をしなければそのうち症状を呈するようながんを診断」したところで、甲状腺全摘に至ったり、甲状腺がん死したりする例を減らせなければ、有益ではありません。
*1:甲状腺がんや前立腺がんはアクティブサーベイランス/監視療法という選択肢があるので例外も生じる
*2:https://twitter.com/NATROM/status/974796833506512896
*3:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20413742
*4:誤ったツイートだけが拡散するのが問題になる場合があるので、今後はスクリーンショットを取って訂正の過程を明示した上で、もとのツイートは削除するという方法をとるかもしれません
*5:いわゆる「狭義のスクリーニング効果」ということなる