NATROMのブログ

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各務裕史さんからの指摘に対する答え

がん検診における過剰診断について、ツイッターで各務裕史さんという方とやり取りしています。私の立場は2015年に■「過剰診断」とは何かで説明した通りです。過剰診断についてはしばしば誤解されていることがあり、ツイッターでやり取りすることで誤解を解消したり、どのような誤解が起きやすいか情報を収集できたりします。ただ、ツイッターでは文字制限がありますので、ここで文字制限なく説明を試みたいと考えます。



なとろむ語録として、「甲状腺癌患者が別の原因で死亡したらそれは過剰診断だったという事」とありますが、私はそのような表現はしていません。一般的に、がんと診断されると治療介入されてしまうので、「治療介入前に別の原因で死亡したがゆえに過剰診断であることがわかる」がん患者はかなりレアケースです*1。「別の原因で死亡したらそれは過剰診断だった」というのは、主にがんと診断されないままの人を指します。成人では人口の0.5〜2%ぐらいが「がんと診断はされていないが検診をすると甲状腺がんと診断されてしまう人」です。そういう人は「がん患者」ではありません。



よって、「(1)を何度もツイされ、定義間違いに気づいて(5)に変えられた」というのも各務裕史さんの勘違いです。勘違いというか言いがかりです。「何度もツイ」したのなら、そのツイートを具体的に引用すべきでしょう。



「(4)に至っては今回が初めてのツイ」という主張は誤りです。たとえば、2018年3月18日に「手術とは関係ありません。というか手術してしまうと過剰診断かどうかわからなくなります」とご説明しています*2



「発現」の意味がわかりかねますが、高野説に限らず「検診で診断された癌の中に将来症状を呈するものとしないものがある」というのは正しいです。「50年後に発現する癌の診断も過剰診断?」については、「50年後に症状を呈する癌の診断」は定義上、過剰診断ではありません。「そもそも別原因で死亡云々は過剰診断論議に無関係」というのは誤りです。というのも、症状を呈する前に別の原因で死亡するような病気を診断することは過剰診断だからです。そもそも、「別原因で死亡」した人を病理解剖すると前立腺がんや甲状腺がんが多く見つかる、という事実が過剰診断の根拠の一つであることを思い出せば、「別原因で死亡云々は過剰診断論議に無関係」という各務裕史さんの主張が明確に誤っていることがわかります。

がん検診における過剰診断についてよく引用されるキーとなる論文がWelch and Black(2010)*3です。この論文の図に「がんが症状を引き起こすサイズ」になる前に「他の原因で死亡」するような場合が示されています。



「別原因で死亡云々は過剰診断論議に無関係」だとしたら、いったいなぜ、Welch and Blackはわざわざこの図を掲載し、多くの専門家が引用したんでしょうか?各務裕史さんに対して「Welch and Black(2010)の内容をご理解していますか?」と複数回おたずねしましたがお答えがありません。もしかしたら英語がわからないのではないかとも考え、「"Death from other causes"の意味はわかりますか?」とも複数回おたずねしましたがお答えがありません。


「その基となったなとろむツイは消されたのか見つからず」とありますが、各務裕史さんとのやり取りのツイートを消したことはありません。というかごく些細な誤字訂正以外では私は原則としてツイートは消しません。訂正する場合は、リプライか引用RTで、「私は××と主張していたがそれは誤りで、正しくは○○でした」などと書きます*4

理由の第一には議論に対して誠実でありたいからですが、そうでなくても、ツイッターに限らずネットで発言したものは記録されるものです。都合が悪いから過去の発言を断りなく削除するという態度はいつかばれます。そのようなみっともないことになりたくありません。



というわけで、「甲状腺癌患者が別の原因で死亡したらそれは過剰診断だったという事」とは私は発言しておりません。各務裕史さんによる捏造もしくは誤解であると思われます。たぶん後者です。「捏造」は意図的な意味合いがありますが、各務裕史さんは過剰診断について十分な理解をしておらず、よって、私が言ってもいないことを言ったと勘違いしたのではないかろうかと。自分がよくわかっていない分野については、安易に「相手は××と言った」などと主張してはいけません。相手の言っていることを自分が正確に理解しているとは限らないからです。




老衰まで症状が出ないがんを診断することが無益であるのは正しいです。「症状が出る前に別原因で死亡」も過剰診断なので無益です。「検診後発症⇒有益な検診」というのも誤りです。「検診をしなければそのうち症状を呈するようながんを診断すること」は、定義上、過剰診断ではありません*5が、それと検診が有益であるかどうかは別問題です。検診が有益であるためには、予後をいいほうに変えることが必要です。「検診をしなければそのうち症状を呈するようながんを診断」したところで、甲状腺全摘に至ったり、甲状腺がん死したりする例を減らせなければ、有益ではありません。

*1:甲状腺がんや前立腺がんはアクティブサーベイランス/監視療法という選択肢があるので例外も生じる

*2:https://twitter.com/NATROM/status/974796833506512896

*3:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20413742

*4:誤ったツイートだけが拡散するのが問題になる場合があるので、今後はスクリーンショットを取って訂正の過程を明示した上で、もとのツイートは削除するという方法をとるかもしれません

*5:いわゆる「狭義のスクリーニング効果」ということなる