NATROMのブログ

ニセ医学への注意喚起を中心に内科医が医療情報を発信します。

早期腎がんの長期予後、部分切除対片腎全切除


■Long-term survival following partial vs radical nephrec... [JAMA. 2012] - PubMed - NCBI

対象:メディケア受給者の1992年から2007年までのstage T1a の腎がん患者。部分切除 1925人 対 根治切除(片腎全摘) 5213人
方法:後ろ向きコホート。
アウトカム:全生存および腎癌特異的生存
結果:追跡期間中央値62カ月の間に部分切除 1925人中487人(25.3%)、根治切除 5213人中2164人(41.5%)が死亡。腎癌特異的生存には有意差なし。
結論:部分切除は根治的切除と比較して生存率の改善に関係する。



本文はまだ読んでいない。以前から早期腎がんは片腎全摘より部分切除のほうがいいとされてきたことを、実際に全生存を指標にして確認した研究。腎癌特異的生存が差がないのに全生存で差があるのは、「片腎全摘をしても部分切除をしても癌は切除できるが、片腎全摘によって腎機能予備能が低下し、腎癌以外の原因の死亡が増える」として説明可能である。

別の説明も可能である。部分切除が選択されることが、他の予後を改善する交絡因子と関係している可能性はある。たとえば、長時間の手術に耐える体力とか(全摘のほうが術式が単純なので手術時間は短い)、よりよい病院を受診できる経済的・社会的背景とか(部分切除のほうが術式としては難しい)。本文をまだ読んでいないのでどれくらいの補正がされているのかわからない。ただサマリーを読む限りでは"associated with (関係する、相関する)"とあるので、「部分切除が生存率を改善の原因である」という確実な因果関係は証明されていないと思われる。本当のところを知るにはRCTするしかない。

いずれにせよ、早期腎がんの治療法としてもはや片腎摘出はgold standardとはみなされていないことは変わらない。私が患者だったら、部分切除をして欲しい。患者に選択させるのなら、このような研究結果を踏まえた説明がなされるべきだ。



2009年にも似たような研究はなされている。

■Radical versus partial nephrectomy: effect on overall... [Cancer. 2009] - PubMed - NCBI


CONCLUSIONS:
Relative to PN, RN predisposes to an increase in overall mortality and non-cancer-related death rate in patients with T1a RCC. In consequence, PN should be attempted whenever technically feasible. Selective referrals should be considered if PN expertise is unavailable.
結論
部分切除と比較して根治切除は、stage T1aの腎細胞癌患者において、全死亡および非癌関連死亡の増加の素因( predisposes to )となる。結果として、技術的に可能であるならいつでも部分切除術が試みられるべきである。もし部分切除の専門家がいなければ、紹介も考慮されるべきだ。