NATROMのブログ

ニセ医学への注意喚起を中心に内科医が医療情報を発信します。

未来さん(kirara2020Aさん)にツイートに対するご説明

■HPVワクチンの「重篤な有害事象」7%は高すぎるか?に対し、未来さん(kirara2020Aさん)という方からツイッターでご質問をいただきました。ツイッターでもお答えしましたが*1、字数制限のあるツイッターではご理解していただけない可能性があるので、こちらでもご説明いたします。

エイムゲンにはアジュバントは入っていません。

エイムゲン(A型肝炎ワクチン)には何らかの抗原は入っています(添付文書には「不活化A型肝炎ウイルス抗原」とだけあってウイルス様粒子かどうかまではわかりません)。そりゃ、ワクチンですから何らかの抗原は入っているに決まっています。でも、アジュバントは入っていません。国立感染症研究所のサイトが根拠です。


ウイルス様粒子VLPは問題かもしれませんし、そうではないかもしれませんが、それはそれとしてエイムゲンにはアジュバントは入っていません。

未来さんは「ウイルス様粒子VLPも問題」と主張されました。その主張に対して私は必ずしも賛同しませんが、未来さんがそう主張するのはご自由です。それはそれとして、やっぱりエイムゲンにはアジュバントは入っていません。アジュバントなしの対照群でも重篤な有害事象の頻度はワクチン群と変わらないというも事実です。「エイムゲンにはアジュバントは入っていない」という事実を述べることがなぜ「騙そうとする」「虚偽情報」*2ということになるのでしょうか。


HPVワクチン群でもA型肝炎ワクチン群でも同程度の有害事象が起こることは述べています。

HPVワクチン群と対照のエイムゲン群で、ほぼ同程度の重篤な有害事象が起こることは私のエントリーでも述べています。どこが嘘なのでしょうか?


おそらく未来さん(kirara2020Aさん)の言いたいことはこうではないですか?

以上で述べたように私のエントリーには「虚偽情報」は含まれていませんが、いったいなぜ未来さんが「虚偽情報」「騙そうとする」だと誤解しているのかは、想像がつきます。

未来さんは、3.5%もの有害事象はHPVワクチンと因果関係があるとお考えなのでしょう。だとすると、対照群の3.6%もの有害事象もワクチン(エイムゲン)由来であると考えざるを得ません。アジュバントが原因ではないものの、エイムゲンに含まれている抗原(ウイルス様粒子VLP?)こそが原因というわけです。そう考えると、「エイムゲンにはアジュバントは入っていません」という事実の記述が、「アジュバントと同じぐらい危険なウイルス様粒子VLPに言及していない。なとろむは騙そうとしてる」という誤った考えに結びつくのです。

もともとのエントリーでも書きましたが、A型肝炎ワクチンは長年使用されてきた実績があり安全性はおおむねわかっています。対照として使用された理由もそのあたりにあります。もしかしたら、未来さんは、そのような標準的な考え方を信じず、A型肝炎ワクチンであっても数%もの重篤な副作用を引き起こしうる危険なものであるとお考えなのかもしれません。

しかしながら、A型肝炎ワクチンについてごく標準的な考え方を持っている人、あるいは、「アジュバントこそが悪者だ」と考えている人にとっては、私のエントリーは別に何も「虚偽情報」「騙そうとする」というものではありません。

なお、すべてのワクチンには何らかの抗原が含まれています。これまでの使用実績から安全だと考えられているA型肝炎ワクチンですら数%もの重篤な副作用を引き起こしうる危険なものだとしたら、すべてのワクチンについても危険であると考えなければなりません。もちろんそのように考えるのは自由ですが、そうした考え方は、単にHPVワクチンの安全性を批判しているにとどまっておらず、反ワクチンとみなしていいと私は考えます。

B型肝炎ワクチンに数%もの重篤な副作用がある、ということにはならない

「これまで長らく使用されてきた実績のあるA型肝炎ワクチンやB型肝炎ワクチンに数%もの重篤な副作用がある、ということになりはしませんか」という問いかけに対し、未来さん(kirara2020Aさん)から「そういうことになるのではないですか?」というお返事をいただきました。


そういうことにはなりません。未来さんが根拠として挙げられているのは「接種している同僚にもアレルギー疾患や自己免疫疾患に罹患している方がやたら多い」ことですが、せいぜい「私の同僚には気が短い血液型がB型の人がやたら多い」程度の根拠です。

私の勤務先は病院ですので、血液に暴露する可能性のある新規の勤務者にはB型肝炎ワクチンを接種します。しかし、接種後にアレルギー疾患や自己免疫疾患を発症したなんて例は存じ上げません。まあこれは私の個人の経験に過ぎませんので、やはり根拠としては乏しいです。

しかし、病院は日本中に何千とあります。そのなかでB型肝炎ワクチンを接種している人は何万人にもなるでしょう。未来さんが同僚の中で疾患が増えていることを気づくほどにB型肝炎ワクチンが疾患の原因になるとしたら、この何千とある病院関係者の誰かがとっくに気づいているのではないですか。誰も気づいていないとしたら、



1. 何千とある病院関係者が気づくことのできないような変化に未来さんは気づいた。
2. 未来さんの同僚に罹患者が多いというのは、偶然か、もしくは、確証バイアスであって、ワクチンとは無関係である。



のいずれかだと思われます。どちらの可能性が高いと思いますか?

海外でもB型肝炎ワクチンは広く接種されています。しかしながら、アレルギー疾患や自己免疫疾患との関連は観察されていません。これが「数百万分の1の確率で疾患を増やす」とかなら「本当はワクチンによって疾患は増えているのだけれども背景に埋もれて気づかれないだけだ」という可能性もありますが、さすがに数%もの重篤な副作用が世界中で見逃されているなんてことはきわめて考えにくいのではないでしょうか。



1. 世界中の医学者は数%もの重篤な副作用を見落としているボンクラである。
2. 世界中の医学者は数%もの重篤な副作用に気づいているが、口裏を合わせてワクチンを打ち続けている。
3. B型肝炎ワクチンには数%もの重篤な副作用はない。



のいずれかだと思われます。どの可能性が高いと思いますか?

未来さん(kirara2020Aさん)のアカウントが削除されました。

2018年6月9日8時10分の時点で、kirara2020Aさんのツイッターのページにアクセスしようとしても「このページは存在しません。」としか表示されません。いわゆるブロックではなく、アカウントが削除されたようです。kirara2020Aさんに対しては、

  • 『「アジュバントを含有していない」ではなく 「アジュバントは含有していないがVLPは含有している」 と記載しなければ虚偽になります』とkirara2020Aさんは主張しているが、VLPに言及していないアジュバントのみの言及では虚偽にはならない。ごく基本的な論理の問題だ*1
  • 「抗原を含んでいる全てのワクチンについて話しているではありません。VLPについてです」とのご主張だが、そもそもエイムゲンがVLPを含有しているという情報を見つけられない。「エイムゲンがVLPを含有している」というソースを提示してください*2
  • 「抗原を含んでいないワクチンは存在しません」という私の発言から、「HPVワクチンが従来のワクチンと同じ作用機序だと誤った認識されていることに驚く。 これまで出会ったHPVワクチン推進派医師は作用機序を知らない」と評価しているが、「すべてのワクチンが抗原を含有している」ことと「すべてのワクチンは同じ作用機序である」ことは異なる*3

と指摘しましたが、お答えがないまま、アカウント削除ということになりました。

実際のところ、エイムゲンには一般的な定義で言うところの「ウイルス様粒子(VLP:Virus-like Particles)」は含まれていません。エイムゲンに含まれているのは全粒子不活化ウイルス抗原です。そもそも、kirara2020Aさんの最初の主張である

「エイムゲンにはT細胞を活性化するウイルス様粒子VLP(KRM003)が入っているではないですか」

という主張からして間違っていたのです。「エイムゲンにはVLPが入っている」という誤った認識に基づいて、kirara2020Aさんは私に対して「虚偽情報を流布し続けて訂正もされず…。偽医学の著者が国民を騙し続けて大丈夫ですか?」などと仰っていたのです。「エイムゲンがVLPを含有しているというソースを示せ」という私のツイートをきっかけに、ご自分の誤りに気付いたのではないかと期待しています。

ついでに申し上げますと、よしんばエイムゲンがVLPを含有していたとしてもアジュバントは含有していませんので、「エイムゲンはアジュバントを含有していない」という命題は虚偽ではありません。

「これまでの使用実績から安全だと考えられているA型肝炎ワクチンですら数%もの重篤な副作用を引き起こしうる危険なものだとしたら、すべてのワクチンについても危険であると考えなければなりません。このような考え方は反ワクチンとみなしていいと考えます」と述べたことに対して、kirara2020Aさんは

「抗原を含んでいる全てのワクチンについて話しているではありません。VLPについてです。話を逸らさないで下さいね」

と述べました。この時点では、kirara2020Aさんは、「私はワクチン全体ではなくVLPについて問題にしているがゆえに反ワクチンではない」とご認識していたのでしょう。しかしながら、エイムゲンがVLPを含有していないことを知った時点で、ご自分の主張が反ワクチンに他ならないか(「VLPもアジュバントも含有していなくてもA型肝炎ワクチンは危険」)、もしくは、数%という高い重篤な有害事象はワクチンと因果関係がないことをお認めになるしかない、ということにお気付きになったと期待しています。

kirara2020Aさんは、ごく基本的な論理やVLPについての情報についてご存じないまま私を批判したのですが、それはまあいいでしょう。しかし、HPVワクチンに批判的な論者でkirara2020Aさんに注意を促す人はいなかったことを記録しておきます。とくにsivadさんは、「抗原を含んでいないワクチンは存在しない」という事実の指摘から、私の言ってもない「HPVワクチンが従来のワクチンと同じ作用機序だ(なとろむは誤って考えている)」というkirara2020Aさんの間違った認識に乗っかって、「(なとろむは)免疫学の基礎も知らないのかもしれませんね」*4などと述べています。sivadさんも上記したごく基本的な論理をご存知ないか、あるいはkirara2020Aさんの誤りを承知した上で知らない振りをしたか、あるいは経緯もまった把握せずに単にNATROM批判に乗っかったのかの、いずれかであろうと思われます。反論があるなら、ウソを言い続けても批判されにくいツイッターではなく、可読性が高く字数制限のないところでなら、議論に応じます。「信者さんしか見ないようなコメント欄はお断り*5」ということであれば、sivadさんのブログのコメント欄でもいいですよ。