NATROMのブログ

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白血病についての大雑把な解説

■今回報道された急性白血病と福島原発作業の因果関係は?というエントリーについて、id:rnaさんから、『「事前の健康診断で白血球数の異常がなかったとしても、まったく不思議はありません」ここもうちょっと説明が欲しい。』とのコメントをいただきました。なので、たいへんに大雑把でありますが、白血病と血液検査(末梢血検査)について説明してみます。血液内科をご専門とする先生方は、以下の説明を読んでいろいろ思われることがおありでしょうが、なにぶんやっつけ仕事ですので、大目に見ていただければ幸いです。看過できない誤りがあればご指摘ください。





白血病の発症を示すシェーマ


血液の中に含まれる白血球は、骨髄の中で造血幹細胞が分裂増殖分化してできます。正常の状態がAです。

白血病細胞が生じて分裂増殖してしばらく時間が経ったのがBです。骨髄の中にわりとたくさん白血病細胞がいますね。ごく少数ですが、白血病細胞が末梢血の中にも出ています。「事前の健康診断で、骨髄の検査まで行えば、なんらかの異常が発見されていたかもしれません。あるいは、末梢血であっても、白血球の形態の異常の有無を顕微鏡で詳しく見ていれば、なんらかの異常が発見されていたかもしれません」と書いたのは、Bの状態を想定していました。Bの段階では、症状はありません。もしかしたら、注意深く問診をしたら、微熱が出るとか、骨痛があるとか、があるのかもしれませんが。

白血病細胞が増えすぎて、骨髄から溢れる状態がCです。こうなってはじめて、末梢血にも白血病細胞がわんさか出ます(不思議なことに白血病のタイプによっては出なかったりします)。白血病細胞が増えすぎることも問題なのですが、正常な骨髄細胞の場所が奪われるのも問題です(場所だけでなくサイトカインとかの影響もあるんだろうけど)。正常な血球、つまり、血小板、赤血球、正常に分化した白血球が減少します。すると、出血したり、感染しやすくなったり、とにかくろくでもないことが起きます。

白血病のタイプにもよりますが、B→Cへの推移が急激なタイプの白血病がある、というのが私の理解です。イメージとしては、骨髄の中でどんどん白血病細胞が増えるものの、正常な骨髄細胞の増殖をさまたげるまでは症状に乏しく、骨髄がパンパンになった時点で、ダムが決壊するがごとく、症状が出たり、末梢血での異常所見を認めたりするというものです。下流の流れを見ただけではダムにどれくらい水がたまっているのかわからず、ダムが決壊してはじめて異常が判明する、というイメージです。