NATROMのブログ

ニセ医学への注意喚起を中心に内科医が医療情報を発信します。

「コロラド先生」のツイッターアカウント凍結と過去の発言について

積極的にHPVワクチンや新型コロナウイルス感染症について情報を発信していた「コロラド先生」*1のツイッターアカウントが凍結されたようである。異邦人氏のツイートを引用する。



「徹頭徹尾データに基づき素晴らしい発信」をしていたかどうかについては大いに疑問だが、アカウント凍結は私にとって残念なことである。というのも、BB45_Colorado氏は過去にHPVワクチンについてきわめて問題のある発言をしていたが、その検証が困難になったからだ。わかっている範囲内で言及しておく。

「害が利益を圧倒するHPVワクチンのようながらくた」「安易な導入を行った人間は死刑でよい」

ご承知の通りHPVワクチンは副作用の懸念のため諸外国と比較して日本で接種率が低い。とは言え、副作用や効果がよくわかっていなかったころにHPVワクチンに対して慎重な立場を取るのは一定の合理性はあった。しかし、BB45_Colorado氏の主張はそうした合理的な慎重論ではなく、知識不足による非科学的で乱暴な断定だった。たとえば、BB45_Colorado氏は「僕は、ワクチン接種積極論者だが、意味がなかったり、害が利益を圧倒するHPVワクチンのようながらくたには断固反対するし、安易な導入を行った人間は、死刑でよいと考えている」と述べた。

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https://archive.ph/FdcFH より引用

HPVワクチンが浸潤子宮頸がん罹患の減少と関連するというリアルワールドデータもすでに出ており、「害が利益を圧倒する」という主張が完全に誤りであることは今や多くの方々が同意できるだろう*2。浸潤子宮頸がん罹患減少のデータが出る前の発言であることを考慮し、百歩譲ったとして、「死刑でよい」という強い言葉が許されるのか

HPVワクチンの導入当時でも臨床試験では高病原性HPVの感染を防ぐことは示されていて、導入には合理的理由があった。だからこそ日本だけではなく諸外国でも導入された。医療には不確実性がある。もちろん、後日に検証なり批判なりは必要であるが、結果責任で「死刑でよい」とまで言われるようなら誰も新しい医療を導入しようとしなくなるだろう*3

「何で子宮頸がん検査を受けなかったんだ?????」

BB45_Colorado氏を擁護する「コロナ死者数を嘲笑う人間が野放しでコレ(BB45_Colorado氏は凍結)か」との発言についてだが、確かに他に凍結に値するアカウントが放置されているということはあるだろう。しかし、BB45_Colorado氏もまた、死者の尊厳を尊重しているとはとても言えなかった。私が一番許せなかったのは、「家族が子宮頸癌で死にました。子宮頸癌はワクチンで防げる病気です」というツイートに対する、「何で子宮頸がん検査を受けなかったんだ????????????????」「医者の家族でしょ?」「自称医者にしても何でこんなにあたま悪いの??????」というものだ。この発言についてはtoggetterにまとめられており、現時点でも確認可能である。


■「家族を子宮頸がんで亡くした。みなさんはHPVワクチン打ってください」→コロラド先生「何で子宮頸がん検査を受けなかったんだ?」 - Togetter


BB45_Colorado氏の「何で子宮頸がん検査を受けなかったんだ」発言の問題点は二つある。一つ目は子宮頸がん検診の限界をご理解していないように読み取れる点だ。がん検診の中でも子宮頸がん検診は優秀な部類だが、それでも子宮頸がん死を減らす効果は(報告によって差があるが)メタ解析では6~7割ぐらいだ*4。つまり子宮頸がん検診を受けても子宮頸がんで亡くなることはある。子宮頸がんで亡くなった「家族」が子宮頸がん検診を受けていたどうかは、ツイートからはわからない。子宮頸がん検診を受けたけれども亡くなったのかもしれない。

BB45_Colorado氏が子宮頸がん検診の限界を知らなかったとしたら勉強不足である。海外では子宮頸がん検診の受診率は高いものの、検診に限界があるためHPVワクチンが導入されたという経緯がある。そうしたこと基本的なことすらご存じないのにHPVワクチンの是非について論じることができようか。BB45_Colorado氏が子宮頸がん検診の限界を知っていたとしたら、子宮頸がん検診を受けても運悪く子宮頸がんでご家族を亡くしたかもしれない人に対して平然と「何で子宮頸がん検査を受けなかっただ????????????????」とツイートできるその心情を私は理解できないし理解したくもない。

BB45_Colorado氏の発言の問題点の二つ目は、医学的な妥当性とは別に、道徳的に許されるかどうかという点だ。よしんば子宮頸がん検診が完全にがんを防げるとしても、子宮頸がんで家族を失った人に対して、「何で子宮頸がん検査を受けなかっただ????????????????」「医者の家族でしょ?」という発言は適切か。コロナ死者数を嘲笑う人間だけではなく、子宮頸がんで亡くなった方やその家族を嘲笑う人間もまた、つい最近まで野放しになっていたものと、私は考える。

BB45_Colorado氏のアカウント凍結の理由を私は知らないが、ここで言及した以外にも引用すらはばかられるような発言は多数ある。何がひっかかったとしても全く不思議ではない。口喧嘩はネットの花というところも確かにあるが、BB45_Colorado氏を擁護するほうも、批判するほうも、最低限の節度は持っていただきたい。

*1:URL:https://twitter.com/BB45_Colorado

*2:浸潤子宮頸がん罹患の減少のデータが出てきたあたりからBB45_Colorado氏は、2価HPVワクチン(サーバリックス)が問題だったのであって、4価HPVワクチン(ガーダシル)はそうではないという論調に変化させたように見えた。過去の間違った発言の責任から逃れることを目的に、「HPVワクチン」を否定していたのではなくあくまでも「2価HPVワクチン」を否定していたことにしたかったのではないかと私は考える。しかしながら、過去の氏の発言を検索した限りでは2価も4価も区別せずにHPVワクチンをガラクタ呼ばわりしていたし、なんなら「サーバリックスやガーダシルは、先行した欧米で重篤な副反応が報告されているのに無視して承認したら、本邦では輪をかけて酷いワクチン禍を起こした国策エセ科学・エセ医療の最悪事例ですね」という発言をしていたことも確認している。アカウント凍結で過去のこうした無責任で間違った発言がなかったことになるのを危惧する

*3:仮にHPVワクチンを導入せず、のちに副作用が十分に小さく、がん罹患を減少させることが結果的に確認されたら(実際、確認されたのだが)「日本だけワクチンの導入を遅らせて多くの女性を子宮頸がんで殺した。死刑に値する」と当局の責任を追及する人がいそうだ

*4:マンモグラフィーによる乳がん検診が乳がん死を減らす効果は2割ぐらい