NATROMのブログ

ニセ医学への注意喚起を中心に内科医が医療情報を発信します。

ワクチンを接種しない人を批判してはいけない

新型コロナウイルスワクチンが、日本でも今年の2月から順次接種される予定だ。発症予防と重症化予防の効果は確かで、短期的な安全性も海外で数万人単位の臨床試験および千万人単位での実地での接種が済んでおりほぼ確認されている。重篤な副作用はあるが頻度は十分に小さく、害より利益が上回るのは明確だと私は判断し、順番が来た時点ですみやかに接種を受けるつもりである。

しかしながら、他者への感染予防効果については、効果は示唆されるものの、現時点では確実とは言えない*1。また、当然のことであるが1年以上を単位とした長期的な副作用の有無はまだわからない。ワクチンを接種するのをためらい、保留する人がいるのは当然のことだ。あるいは、どんなにまれであっても重篤な副作用が起きる可能性があるワクチンを接種したくない人もいるであろう。

どのような医療を受けるかを決める権利は本人にある*2。もちろん、ワクチンについてもそうだ。ワクチン接種が強制されたり、ワクチンを接種しないことを選択した人が責められたりすることがあってはならない。同調圧力によって、事実上の強制となるのもよくない。

新型コロナウイルスに感染すると重症化しやすい高齢者や基礎疾患のある人と接する機会のある、医療従事者や施設職員についても、原則としてワクチン接種が強制されてはならない。そもそも感染予防効果はまだ不明確であるし、よしんば将来、感染予防効果が明確になったとしても、強制ではなく推奨に留めるべきである。自発的なワクチン接種率が低い場合、感染症に弱い人たちが安全に過ごせる権利と医療従事者・施設職員が自らが受ける医療を選択する権利が両立できないジレンマが生じるかもしれないが、どちらの権利も尊重されるべきであり、安易にどちらかの権利が無視されてはならない。

なお、ワクチンについての不正確な情報発信や不安を煽る報道を批判してならないとは言っていないことに注意していただきたい。ワクチンを不安に思い接種しないことと、ワクチンの不安を煽って他者にワクチン接種を忌避させることは、明確に区別されるべきだ。理想は、すべての人がワクチンについての正しい情報にアクセスでき、自分の意思でワクチンを受けるかどうかを決定できることである。ワクチンを接種しない人を批判してもこの理想に寄与しない。

それに、新型コロナワクチンが十分なだけ供給されるのはかなり先の話だ。とりあえず接種したい人にどんどん接種すればいい。ワクチン接種をしたくない人に、なぜ接種しないのか問い詰めるのはよくない。接種しない本当の理由は、注射は痛いからとか、単に面倒だとか、なんとなく嫌とか、だったとしても、問い詰められたら、「早すぎる開発・承認は信頼できない」とか「長期的な副作用が心配」とかもっともらしい答えを考えるだろう。どうかするとネット上で見かけた陰謀論の類いを答えるかもしれない。一度口にすると、一貫性を保つため、ワクチンが余るようになっても忌避し続けかねない。ワクチンを接種したくない人には、「そうなんだ。じゃあ私、先にコロナワクチン打つね」ぐらいのテンションで対応するのがよいのではないかと考える。

接種がはじまったらワクチンとの因果関係の有無に関わらず重篤な副作用が疑われる事例は必ず出るし、副作用の不安を煽るマスコミも必ず出る。もちろん、不適切な報道に対する批判をしてもよいが、副作用を訴えた本人や家族を批判するべきではない*3。そして、副作用が疑われる事例には補償も含めて適切に対処し、十分な調査を行い、データを公開する。

ワクチンを接種したい人だけが接種し、粛々と安全性と効果のデータを積み上げるほうがよいと思われる。というか、実際問題、本当の強制なんてできないのでそうするしかない。安全性と効果の十分なデータがそろったとしても、全員がワクチンを自発的に接種することはないだろう。むしろそのような社会は不健全だ。全員ではないにせよ多くの人が自発的にワクチンを接種し、一定数以上の人が免疫を獲得できれば流行はおさまる。そこを目指そう。

*1:程度はともかく感染予防効果もあるに決まっていると個人的には考える。発症予防効果が95%で感染予防効果が0%なんてきわめて考えにくい

*2:未成年の場合は医療水準や社会通念に照らして適切だとされている医療を親権者が受けさせないのは医療ネグレクトに相当するが、現時点では新型コロナワクチンは小児は対象外なのであまり考えなくもよい

*3:しばしば「反ワクチン」側は、不安を煽るデマに対する批判を「被害者」に対する批判にすり替える。医療者のごくごく一部であっても、ワクチン「被害者」を非難するような発言があれば、彼らは「ワクチン接種率が低いのは、デマのせいではなく、医療者が被害者を非難するからだ」と主張するだろう。彼らに口実を与えてはいけない