NATROMのブログ

ニセ医学への注意喚起を中心に内科医が医療情報を発信します。

Ingressと健康

Ingress(イングレス)は位置情報を利用したゲームである。プレイヤーは青:Resistance(レジスタンス)緑:Enlightened(エンライテンド)のどちらかの陣営に属し、現実世界の中を動き、ポータルと呼ばれる陣地を取り合う。神社、寺院、公園、郵便局、記念碑、彫像などの、宗教的・歴史的・芸術的に重要な場所がポータルとなっている。

Ingressをプレイするには外へ出てポータルの近くまで行かなくてはならない。車や自転車を使うプレーヤーもいるが、歩いてプレイするのが面白い。Ingressをプレイするようになってから近所にお地蔵さんや庚申塔があることをはじめて知った。Ingressをプレイしなければおそらく一生知らなかったであろう。いつも通る道から路地を一本入り込んだだけで、まるで旅先にいるような奇妙な感覚を覚える。これまでにない体験だ。

町の歴史を考えることも多くなった。当たり前のことであるが、宅地造成されてできた新しい町には神社や地蔵などはなく、主なポータルは公園と郵便局である。逆に古い町並みには、Ingressをプレイしていなければ見落としてしまいそうな、刻まれた文字も読めなくなった石碑があったりする。ビルとビルの隙間にある小さな神社の由来に思いを馳せながら散歩するのは楽しい。






博多駅近くの猿田彦の石碑。猿田彦神社は知っていたが石碑は知らなかった。思いのほかたくさんある。



Ingressをプレイすることで、確実に歩く機会が増えた。健康によいのではないか、という指摘は何度もされてきた。たとえば、■ゲームをしながらウォーキング・ダイエット! 全世界を席巻する「Ingress」の魅力|健康・医療情報でQOLを高める〜ヘルスプレス/HEALTH PRESS■うつ病の治療にIngressが効く10の理由 | 岡山の心療内科HIKARI CLINICなど。ありえない話ではないと思う。少なくとも、座って画面に向かい合っているだけというタイプのゲームと比較すればずっと健康に良い。海外には、"ingress-health.com"というサイトすらある。






ingress-health.comのトップページ。争いが起きないよう青でも緑でもない配色。



これはもう医学論文も書かれているのではないかと思い、Pubmedで調べてみた。2016年4月1日時点で"Ingress"をタイトルに含む医学論文は78本だった。けっこうある。






"Ingress"をタイトルに含む論文の一例。Resistance(青陣営)について述べてあるようだ。



どのようなゲームもそうだが、根を詰めすぎるのもよくない。また、端末を見ながら歩くと事故に遭うおそれがある。ゲームであるから、健康によいというのは副次的なものであり、楽しむことが第一である。プレイスタイルは人それぞれ。楽しくプレイしていただきたい。