「医療ジャーナリスト」の伊藤隼也氏が、2016年4月16日付のツイートにて、「熊本済生会病院」にて物品や水などの不足があるとの情報の拡散を促す主張を行った。
拡散!熊本済生会病院からSOS !以下の物品大至急欲しい!食料(米、非常食)ガス調理器(発生器)手術用消耗品(ガーゼ、糸)滅菌済み手術機器(オートクレーブ使用不可のため) また、透析患者多数も余震で水タンク破損の可能性ありで今後の水が不安。東日本大震災同様で国の情報収集問題あり!
— 伊藤隼也 (@itoshunya) 2016年4月16日
熊本済生会病院では現在、人工透析稼働中ですが、物品や水などの不足SOSが小生に直接入っています。政府は現地の情報収集をもっと迅速に行いロジスティックの支援を行って欲しい。東日本大震災と全く同じ現象が起きている。 https://t.co/k6qpfMinnL
— 伊藤隼也 (@itoshunya) 2016年4月16日
しかしながら、日経メディカルに掲載された済生会熊本病院循環器内科部長坂本知浩医師のインタビューでは、
■徹夜でトリアージ、2日ぶりの帰宅でくつろいでいたときに本震が…(3ページ目):日経メディカル
幸いなことに地震発生直後も現時点(引用者注:4月21日)でも、院内の食糧や医療用品は枯渇していない。なぜなら、当院は災害拠点病院のため、孤立しても1週間は医療を続けられるように、日頃から食糧や医療品を備蓄しているためだ。途中、外傷患者に最初に使用する細胞外補充液の「1号輸液」が枯渇しかけたときがあったが、物流が回復したことや同じ済生会グループからの支援などもあり、月曜の夕方には全て揃った印象で、問題なく医療を提供できた。
とあり、伊藤氏の主張と食い違っている。伊藤氏の主張の情報源は「済生会病院の関係者」だそうである。その関係者が誰なのかは不明である。一方で、日経メディカルの記事の情報源は所属も氏名も明らかだ。
ジャーナリストの仕事の価値は、ネット上の「拡散!○○病院からSOS 」というような真偽不明の情報について、取材に基づいて事実かどうかを検証し報じることにあると私は考える。百歩譲って、緊急時に情報が錯綜するのは仕方がないとして、状況が落ち着いたら、いったいなぜこのような主張の食い違いが生じたのか、伊藤氏にはきちんと検証していただきたい。
ジャーナリストが情報源を秘匿する意義は十分に理解できる(今回は内部告発とかではないから情報源を秘匿する必要はないと思うが、一般的な話として)。しかしながら、不用意なジャーナリストが、「関係者」を名乗った者から不正確な情報を吹き込まれることもあるだろう。あるいは、信頼できないジャーナリストが、「関係者の話」として不正確な情報を捏造することもできる。
伊藤隼也氏が今回の済生会熊本病院の件について検証しないままであるのなら、伊藤氏の「医療ジャーナリスト」としての信頼性について疑問が生じる。伊藤氏がこれから報じる、あるいはこれまで報じた情報源としての「関係者」の話が、伊藤氏によって正確に伝えられているかどうか、あるいは、その「関係者」が本当に実在するかどうか、懐疑的に見ておいたほうがよい、ということになりかねない。