NATROMのブログ

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国際統合医学会が「国際個別化医療学会」に名称変更していた

前回のエントリー■個人の反応が異なることはランダム化比較試験が実施できない理由にはならないでは、個別化医療だからといってランダム化比較試験(RCT)が困難というわけではないことを論じた。私のイメージする「個別化医療」は、個々のゲノムに応じて薬剤を選択する医療だ。個々のゲノム解読のコストが低くなった西暦2050年には「医師は、あなたの体の異常に対して、平均値的な人間に勧めるような処方箋を手渡すのではなく、あなたのゲノムにぴったり合った処方箋を渡すだろう」*1とドーキンスは予測した。

遺伝子A*2を持つ患者には薬A'を、遺伝子Bを持つ患者には薬B'をという具合だ。ヒトの薬に対する反応は複雑すぎるので、2050年の未来であっても臨床試験なしに薬の効果を確実に予測することは困難で、臨床試験は必要であり続けるだろう。もちろん理想的にはRCTだ。遺伝子Aを持つ患者を多数集めて無作為に複数の群に分け、薬A'を投与された群が他の治療法を受けた群より有意に効果があることが示されば、遺伝子Aを持つ患者には薬A'が標準医療となる。

「ゲノム医療」はまだ十分に実用化されたとは言えない(ゲノム医療についての予測と現状は、aggren0xの日記の■オーダーメイド医療の概説(2)10年前の未来予想図が参考になる)。しかしゲノム医療に限らず、治療の個別化は普通になされている。■標準医療は画一的で、代替医療は個別的という誤解では、慢性C型肝炎の治療が個別化されていった経緯について述べた。一部の分子標的薬はがん細胞の遺伝子変異の有無で使い分ける。これらの個別化医療は現在の標準医療の話である。

一方、統合医療や代替医療も個別化医療であるという主張がある。確かに漢方やホメオパシーは個別化医療の色が強いが、代替医療の中には「ガン・糖尿・アトピーをはじめほとんどの病気は超ミネラル水で治る」といった画一的な代替医療もあるので「統合医療や代替医療の中には個別化医療であるものもある」とするのがより正確であろう。

ところが、「国際統合医学会」の名称が、2011年12月に、「国際個別化医療学会」に変更されたそうである*3。学会の名称なんて先に使用されていない限り自由に名乗ってよいわけで、なるほど、感心した。ただ、それ以上に「うまいこと利用されてる感」*4がハンパない。

このモヤモヤ感をみなさんに共有していただきたくてこのエントリーを書きました。


*1:悪魔に使える仕える牧師, P109

*2:より正確には遺伝子ではなくアリルというべきだろう

*3:■学会名称変更のお知らせ

*4:■はてなブックマーク - aggren0x のブックマーク - 2012年5月29日より