NATROMのブログ

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武田邦彦氏の誠実さ

武田邦彦氏が、ブログにて、牛乳の危険性について指摘している。福島、茨城、千葉の牛乳が大量に西日本に送られ、「汚染された牛乳」と「綺麗な牛乳」がまぜられていることをほのめかしている。さらに、業者の方へ、「正直で誠実」であることを求めている。


■武田邦彦 (中部大学): 誠実な社会を取り戻したい・・・牛乳と柏市の放射線*1


さて、武田氏のブログの内容は、7月11日の執筆当初と7月12日現在の分は微妙に異なっている。「2011年7月11日 15:56 」時点と、「2011年7月12日 10:19 」時点で比較をしてみよう。旧とあるのが、7月11日バージョン、新とあるのが7月12日である。





納めていることも分かってきました→納めているという情報もあります

「混ぜてベクレルを下げる」ということをしているのです→ということもなされるでしょう




放射性物質を薄めていることを自ら発表してください→すべて公開してください


「「汚染された牛乳」と「綺麗な牛乳」をまぜて、ベクレルを規制値以内に納めていることも分かってきました」という断定的な表現が、「という情報もあります」という曖昧な表現に変更されている。

「業者が「混ぜてベクレルを下げる」ということをしているのです」という断定表現が、「ということもなされるでしょう」という将来の予測に変更されている。

「放射性物質を薄めていることを自ら発表してください」という、やはり放射性物質を薄めていることが事実であるとしている断定的な表現が、「すべて公開してください」という表現に変更されている。

このエントリーでは「混ぜてベクレルを下げる」ことが実際になされているかどうかは、検討しない。実際にそういうことがなされているかもしれないし、なされていないかもしれないが、それとは無関係に武田邦彦氏には論者としての誠実さに関わる問題点がある。


武田氏は訂正の過程を明示しない

「混ぜてベクレルを下げる」の件に限れば、最大限に好意的にみて、不確かな情報を元に断定的に書いてしまった文章を、後に考えを変えて改めたのかもしれない。誤りを訂正する態度はまったく問題がない。問題は、誤りを訂正する過程が明示されていないことである。自分のブログを訂正するのであるから、「当初は「汚染された牛乳」と「綺麗な牛乳」をまぜていると断言していたが、情報を再検討した結果、確定的な情報ではありませんでしたので、ブログの文章を訂正したしました」などと、どこかに書いておくだけでよい。それが誠実な態度というものであろう。

はっきり言えば、武田氏は、いい加減なことを書き散らしておいて、反論できないような批判をされたら、自分の間違いをなかったことにしているだけであると、私は考えている。訂正ではなく、証拠隠滅・改ざんだ。武田氏が訂正の過程を明示しない例は、枚挙にいとまがない。たとえば、「核爆発は原爆と同じだから、付近は全て消滅するだろう」は、「核爆発は原爆と同じだから、付近の人は大量に被爆するだろう」に訂正された。「いわき市の市長さんは、「福島産の牛乳や食材は危険だという風評を払拭するため」と言われたようです」という発言については、エントリーごと削除され、なかったことにされた。*2


武田氏は情報源を明示しない

武田氏は、しばしば情報源を明示しない。学者として、あるいは論者として、致命的な欠点である。情報源、引用元が明示されていないと、その情報の信頼性について、読者は判断できない。『「汚染された牛乳」と「綺麗な牛乳」をまぜて、ベクレルを規制値以内に納めているという情報』があるとして、さて、その情報の出所は?地方新聞のスクープなのか?それとも農家からのタレこみなのか?はたまた、「2ちゃんねる」にそう書かれていた?あるいは、武田邦彦氏の捏造か?情報源を秘匿する必要がある場合もあるだろう。しかしながら、その場合でも、「○○県で農家をされている匿名の方からメールでの情報です」などと、可能な範囲内で情報源を明かすことはできる。読者は、その情報がどれくらいの確度があるか、ある程度推測はできるであろう。論者が普段から信頼を得ていれば、「匿名者からのメール情報」を紹介しても、一定の信用は得られるであろう。

仮に、「混ぜてベクレルを下げる」の件について、武田氏が「匿名者からのメール情報」であると紹介したとして、私は全く信用しない。「匿名者からのメール情報」そのものの信頼性もあるが、それ以前に、武田氏が情報源の情報を正しく伝えているかどうか、きわめて疑問だからだ。かつては、武田氏も引用元を明示していたようだが、複数の組織から、「武田氏に捏造された」との指摘がなされている。


■書籍「環境問題はなぜウソがまかり通るのか」での弊協議会データ捏造について 「株式会社洋泉社発行の書籍「環境問題はなぜウソがまかり通るのか」(武田邦彦著)の 13ページ図表1−1下部に「出所:PETボトルリサイクル推進協議会」と記されていますが、 その図表1−1中「」にて示される「再利用量」データに関しては、一切弊協議会の データではなく、弊協議会の名前を騙った捏造データであります。」

■古紙ネット - 会報73-2「標記の本の179頁に掲載されているグラフの出典が「古紙問題市民行動ネットワーク」だと書かれており、あたかも当団体が保証するデータであるかのように紹介されています。 しかしこのグラフは当団体が作成したものではありません。 」


武田氏に悪意があって捏造したとは私も思わない。しかしながら、あまりにも杜撰なやり方で引用するがゆえに、引用された側からは捏造に見えても仕方がない。かつて捏造であるとの指摘があったことが関係しているのか、最近の武田氏のブログでは、データの引用元が明示されることはほとんどない。



ある出版社が、「外国」の環境団体が測定したデータを送ってくれました。(URL:http://takedanet.com/2011/05/post_ab4a.html

おそらくグリーンピースによるものと思われる。環境団体の名を伏せる理由が不明。



なお、普通なら測定したご本人にご了解を得た後にブログに掲載するのですが、現在は多くの方の健康に直接関係があるのでユーチューブをそのまま切り取って利用させてもらいました。(URL:http://takedanet.com/2011/05/110515_1ff0.html

リンクを張っていないばかりか、YoutubeのURLすら書いていない。測定者の了承を気にしているわりに、引用元の明示については無頓着である。



4月1日12時から6時間毎、福島原発からの汚染物質の流れをドイツの情報から掲載します。(URL:http://takedanet.com/2011/04/post_643a.html

引用元を明示していない。元図をトリミングしたことを書いていない。シミュレーションの結果ということは読者にはわからない(おそらく武田氏本人もわかっていなかったのではないか)。



今日のある新聞を読んでいたら、女性の記者が書いた「放射線の体に対する影響」に関する記事が載っていた。(URL:http://takedanet.com/2011/04/63_6329.html

引用元を明示しなければ、捏造をしても批判されにくい。武田氏の引用が正確なのか、それとも武田氏の都合の良いように捏造・改変されたのか、検証が困難である。検証されると、武田氏にとって都合が悪いのだろうか。「いわき市の市長」の発言については、武田氏は、うっかり発言者を特定してしまったので、捏造がばれてしまった。たぶん、次からは、「ある首長は」などと書くであろう。

ブログに限らず、武田邦彦氏の著作についても、引用元の明示がされていないか、あるいは情報源が不明なことが多い。必ずしも全てが捏造的な引用というわけではなく、目的にかなった引用もあるのだろう。しかしながら、適切な引用か否か、読者は検証困難である。武田氏にとっては、ブログの内容を検証しようとするような人は、想定読者の対象外なのではなかろうか。武田氏の想定読者は、自分の書くことを鵜呑みにしてくれる人、事実かどうかよりも「御用学者」の間違いの指摘を期待している人であるのだろうか。


2011年7月15日追記




「福島、茨城、千葉の牛乳」という記述が削除されている。

具体的な産地を書かないことで、訴訟のリスクを避けようとしたのではないかと、私は考える。信頼できるソースに基づいた主張であれば、具体的な産地を書いても何もまずいことはない。捏造による主張なら、なるべくぼやかして書いたほうがいいだろう。

武田邦彦氏は、データを公開しろと主張しているが、たとえば、■原乳、牛乳などの検査結果は農林水産省のサイトで公開されている。どこまで詳しく検査を行い、結果を公表するかについては議論はあっていい。しかし、単に「とにかく検査と公開を」と求めるだけでは、コストがかかり過ぎる。