NATROMのブログ

ニセ医学への注意喚起を中心に内科医が医療情報を発信します。

進化に関係する本3冊

みんなが知りたい化石の疑問50


cover

■みんなが知りたい化石の疑問50 北村雄一(著)


2011年初版。著者の北村雄一は、カバーによれば、「フリージャーナリスト兼イラストレーター」と紹介されている。おそらくは中学生〜高校生向けに書かれたのだろう。文章は平易で読みやすい。カバーに「Webリサーチで集めた疑問をもとに、化石が具体的になにを解き明かしてくれるのかを、写真や復元図を交えながら解説していきます」とある。タイトルにあるように、化石についての疑問、たとえば、「化石と鉱物はどう違うの?」「いつの時代の化石ってどうすればわかるの?」「人工的に化石をつくることは可能?」などといった疑問に答えていく形式だ。オールカラーで写真も豊富である。黄鉄鉱化したアンモナイト、建物の壁の石灰岩に含まれる化石の写真などが美しい。

この手の本は、どうかすると、とんでもないハズレのときがある。ライターが不勉強で、手抜きで書かれることもあるからだ。しかし、この本については、私は著者を信用して買った。この本の著者である北村雄一氏のサイトは以前から知っていた。とくに分岐学について異様に詳しい*1。また、ずいぶん前だが、「恐竜と遊ぼう」 博物館で恐竜を100倍楽しむ方法については買って読んだ*2。子供向けでありながら、それでいてマニアックな本であった。

「みんなが知りたい化石の疑問50」も、文章は平易であるが、内容が低レベルと言うわけでは決してない。とくに分岐学に関してはそうだ。後述する2冊の本にも共通するが、化石だけでなく、科学の方法論についての本でもある。

ありえない!? 生物進化論 データで語る進化の新事実 クジラは昔、カバだった!


cover

■ありえない!? 生物進化論 データで語る進化の新事実 クジラは昔、カバだった! 北村雄一(著)


同じサイエンス・アイ新書のシリーズ。2008年初版。正確には、クジラは昔カバだったわけではなく、クジラとカバは比較的新しい共通祖先を共有するということだろう。この本は主に分岐学を扱っている。それも、単に、「クジラとカバは近縁だった」「鳥は恐竜である」という結論を述べるだけではなく、なぜそのような結論が得られるのか、というプロセスを説明している。言いかえれば、歴史を扱う科学の方法論について述べている。

通俗的な科学者のイメージは、フラスコを持った白衣の人物である。フラスコ内で物質Aと物質Bを混合すると現象Cが起こることは、何度でも繰り返せる。「科学は再現可能性を必要条件とする。歴史は再現できないので科学の要件を満たさない」などという誤解はよく見られる*3。ならば、進化生物学は科学ではないのか?過去に起こったことをどうやって科学的に検証できるのか?タイムマシンがない限り、過去に起こったことは科学的に扱えないのではないか?進化生物学者であり、科学エッセイでも有名だった故グールドはしばしば歴史を扱う科学の方法論についての話題を扱ったが、この本ではグールドよりもわかりやすく説明されている。イラストが読者の理解の助けになっている。このようなイラストが、ほとんど毎ページに出ている。






サイン配列とは、短い散在性の反復配列で、自分自身をコピーして増える性質を持つ。一旦ゲノムの特定の部分に挿入されたらその変化は遺伝する。本書では、羽毛のような表現型と比較して、サイン配列は強力な証拠であると論じている。羽毛は独立に複数回進化したかもしれない。一方、ゲノムの全く同じ部分に独立してサイン配列が挿入される確率は事実上ゼロである。


ダーウィン『種の起源』を読む

中高生向けの本ばかりではない。cover■ダーウィン『種の起源』を読むでは、2009年の「科学ジャーナリスト大賞」(日本科学技術ジャーナリスト会議主催)を取っている*4。タイトル通り、ダーウィンの「種の起源」を解説した本である。「いまさら種の起源?」と考えるのは間違いである。



『種の起源』は現代進化理論の始まりとなった本だ。しかし、150年前に書かれたその内容たるや、初心者向けとは決していえない。学生向けの教科書ですらないだろう。この本を読んでそれを十分理解するには現代進化学の知識と成果が必要だろう。ダーウィンがこの本で申し述べたことは古いと同時にとても新しいのである。私たちは150年前のこの本を読むことで、150年の歳月と150年の知識と150年前から届いた最先端を知ることになるだろう。(P16)


理解しにくい部分は、著者によって、「日本人にとって身近な生物の例や、最近の研究成果も取り上げて」説明が補足されている。思うに、「種の起源」という本は、それぞれの時代や地域の解説者によって解説されるべき本なのだろう。「種の起源」の原著は、150年前のイギリス人(その中でも教育水準の高い人たち)向けに書かれた本なのだから。

*1:いまだ工事中であるが、■架空進化シリーズ:ボウシ島の冒険は、一読の価値がある

*2:■進化論と創造論についての掲示板ログ113によると2002年であった。9年前

*3:URL:http://twitter.com/#!/HayakawaYukio/status/38749858563239936

*4:■科学ジャーナリスト大賞2009北村雄一さん「サイエンスライターは絶滅す」 | 科学技術のアネクドート