NATROMのブログ

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標準医療は治療中心で、代替医療は予防中心という誤解

標準医療は治療が中心であり、予防は代替医療のほうが得意であるとする主張がある。代替医療に親和的であるが、さりとて標準医療を否定するわけでもない人が、よくこういった主張をする。例を挙げよう。


平成22年01月28日予算委員会より(強調は引用者による)


○内閣総理大臣(鳩山由紀夫君) 山根委員から統合医療に関するお尋ねがございました。
 医療には大きく分けて、いわゆる西洋医学、医療、すなわち、これは大きく分けると、何か病気になったときにそれを治療するというのを中心としている医療と、それから、むしろ東洋的な医療、東洋だけに限りませんが、病気にならない、常に健康に維持していくための医療と、その二つが大きく分けてあるかと思います。
 今までややもすると、日本の医療というものがその西洋医学中心であったのではないか、そのように思いまして、党の中でかつてから統合医療を勉強しようではないかということになりました。そして、様々御努力、研究をしていただいた成果というものがございます。
 私としては、むしろ今、この内閣をリードする者として、統合医療を是非政府としても真剣に検討してこれを推進をしていきたいと、様々な問題点がまだ指摘はされておりますけれども、それを克服して推進をしてまいりたい、そのように考えております。


平均的な医師が行っている医療は、ほとんどが「いわゆる西洋医学」、つまり標準医療であるが、「何か病気になったときにそれを治療するというのを中心」かというと、必ずしもそうとは言えない。外科や救急医療であれば、確かに治療中心と言えるだろうが、内科の診療は予防も大きなウェイトを占める。高血圧や高脂血症や糖尿病の患者さんは多いが、これらの疾患に医療介入する理由は、脳血管障害や心疾患の発生の予防である。

まあ、高血圧や高脂血症や糖尿病という「病気」に対する治療ではないか、と言われたらその通り。しかし、食事や運動によってこれら生活習慣病を予防するための行為だって標準医療の範囲内である。疫学的根拠に基づいて、癌になりにくい生活習慣を提示するもの標準医療(参考:がん予防のためにできる6つの方法)。感染症に関する知識は現代医学の大きな成果であるが、マスクや手洗いといった感染を予防する手段を提供するのも標準医療。ワクチンも標準医療。ビタミンの補給で壊血病や脚気の発症を予防できるという知識も標準医療。

一方で、「代替医療は予防中心」とも言えない。それこそ、癌やアトピー性皮膚炎を治すと称する代替医療は星の数ほどある。むろん、予防を謳った代替医療もあるが、ビタミンの補給で脚気を予防できることに匹敵するような、大きな予防効果を持つ代替医療は存在しない。ヨガや太極拳は生活習慣病を予防するかもしれないが、通常の運動療法の効果で説明される以上の効果は、私の知る限りにおいて証明されていない。

「標準医療は治療中心で、代替医療は予防中心」という誤解の他にも、「標準医療は対症療法で、代替医療は原因療法」とか、「標準医療は臓器しか診らず、代替医療は全身を診る」とか、いう誤解も散見される。しかし、標準医療と代替医療のもっとも大きな違いは、十分な証拠(エビデンス)に基づくか否かである。むろん、標準医療とされている医療の中に不十分なエビデンスしかないものもあるし、将来エビデンスが確立される代替医療もあるだろう。しかし、不十分なエビデンスしかない標準医療は再評価後には標準医療ではなくなる。また、エビデンスが確立された代替医療はいずれ標準医療となる。