NATROMのブログ

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JBpress(日本ビジネスプレス)のホメオパシーの記事について

JBpressのサイトに、医療ジャーナリストの長野修氏によるホメオパシーの記事が掲載された。


■自然治癒力を高める「ホメオパシー」 欧米からやって来た代替医療が日本で静かなブーム(「世界で最も安全な医療」から「自然治癒力を高めるホメオパシー」に変更された)
■何のためのホメオパシーか 西洋医学が見放した人を前に、それでもノーと言えるか


詳しくはリンク先を読んでいただくとして、内容は概ねホメオパシーに好意的である。賛同できる部分もあるし、問題がある部分もある。代替医療に関しての私見も含め、JBpressのホメオパシーの記事についてまとめた。



選択肢として代替医療はあっていい

私は、「科学的根拠の乏しい代替療法であっても、末期癌のような積極的な治療手段のない病気に(緩和ケアと併用しつつ)使用するのは、私は必ずしも否定しない」と述べたことがある。長野修氏も同様のことを書いている。



 患者は、最期まで諦めたくない。やれることは何でもやりたいのだ。けれども何もやってもらえない。
 こうした「がん難民」にとって意味を持つのが代替医療である。サプリメント、気功、鍼、漢方、各種運動療法、各種イメージ療法、アロマセラピーなどなど、その種類は多岐にわたる。
 単一の療法では明確な改善は見られなくとも、複数を組み合わせ幅広く用いることで、症状が緩和したり、進行が緩やかになったり、体や心が元気になったという声が生まれていることは、否定することができないのだ。何よりも、「まだやれる治療が残されている」という「希望」は、がん患者への大きな力となる。体にも優しい。
 伝承医療、代替医療の持つ意義というのは、こうしたところにあると思っている。


標準的医療を提供する医師は、治らないときには「治らない」と説明しなければならない。保険診療を行うのであれば、保険適応になっていない治療を行うことはできない。当然、不満に思う人もいるであろう。そういう人たちが、自己責任において、自費で代替医療を受けるのはかまわない。そういう代替医療を提供する医療機関があってもいい。(現代医学で満足できない人の受け皿があってもいいという主張は■代替医療は自己責任ででも述べた)



ホメオパシーは心身相関しているような症状には有効

小池統合医療クリニック・小池弘人院長は、事故やインフルエンザなどの感染症などは西洋医学を最優先すべきであるが、一方で、「身体的な症状はもちろん、精神的な症状にまで」ホメオパシーは有効だとする。



「特に、心身相関しているような症状に関しては、かなり有効です。ただし、うつ病や統合失調症など症状がひどい場合は、化学薬剤を併用すべきだと思います。当医院では、精神科は標榜していないのでやりませんが」


私も、心身相関しているような症状にホメオパシーは有効だと思う。ただし、レメディが効いているのはなく、診療の過程そのものが効いていると考える。



 「診察が一番重要です。まずかなりの量の質問書を患者さんに渡し記入してもらいます。さらに質問を重ねながら、その人を規定する象徴的なキーワードを探します。これをルブリックと言います」
 「例えば、夜中に咳が出るとか出ないとか、太っている痩せている、物を食べると調子が良くなる悪くなる、コーヒーが大好き、タバコが大好き、あるいは過去のトラウマなどなど、精神的なものも含めた、その人を規定する象徴的なキーワードです」
 「これを使って、レパートリーゼーションと呼ばれる検索を行います。辞書が何十冊も入っているような膨大な量なので、コンピューターを使って、検索します。そこからヒットするレメディーが出てきたら、さらに患者さんの話を聞きながら、絞り込んでいきます。それを使って、効けばそれを用い、効かなければまた変えるという、トライ&エラーで決め込んでいきます」


レメディを決める過程において、かなりの時間をかけているのがわかるだろう。心理的な要因で症状が生じている場合、ゆっくり時間をかけて患者さんの話を聞くだけで症状が良くなる場合がわりとある(■激痛を消す魔法陣にて、病院に来るだけで症状が良くなる人について述べた)。日本の標準的な医療機関では、患者さん一人にあまり長く時間をかけることができない。命に関わる身体的な疾患ではないことを確認できれば、抗不安薬でも処方して診療を終わらざるを得ない。十分に時間をかけて話を聞いてあげれば、患者さんの満足度はあがるだろうに。理想的な状態からはほど遠い。一方、ホメオパシー診療はかなり理想に近い。ホメオパシーのみを学んだ素人が対応すれば、精神科医の介入が必要な病態を見落とすことがありうるが、精神科について学んだ医師が対応すれば、その危険も少ない。ただし、コストは高くつく。



ホメオパシーは必ずしも現代医学を否定しないが…

だったら、ホメオパシーは有用なのか。私は、ホメオパシーの有用性は限定的だと考える。そう考える理由として、まず、ホメオパシーは現代医学の否定と結びつくことが多いことがある。たとえば、喘息に対するステロイド治療を否定したり、あるいはワクチンを否定したりする。ただ、ホメオパシーと現代医学否定は不可分ではなく、現代医学を否定するホメオパシー団体が目立つだけである。長野修氏も、そういった団体のことはご存知である。



だからこそ、今回の取材先は、いわゆる西洋医学を学んできた医学部卒の医者が所属する日本ホメオパシー医学会(※日本ホメオパシー医学協会とは異なる)のメンバーにしたのだ。ここが、ホメオパシーだけを医療方法とする人とは、違う。


日本ホメオパシー医学協会は、自称で「日本最大」のホメオパシー協会であり、私が見るところでも影響力が大きい。由井寅子氏が会長であり、ワクチン否定を初めとしたかなり問題のある主張を行っている。一方、日本ホメオパシー医学会は、医師、歯科医師、獣医師、薬剤師によって構成される。由井寅子氏の団体と比べれば、まともである。もっとも、由井寅子氏の団体よりまともでないところは、ちょっと想像できないが。日本ホメオパシー医学会は、「日本の医療の中にホメオパシー医療をしっかり根づかせる」ために設立されたそうだが、だったらホメオパシーを称してトンデモな主張をするインチキ団体を批判してもよさそうなのに、明確には批判していないようだ。由井寅子氏をなんとかしないことには、「日本の医療の中にホメオパシー医療をしっかり根づかせる」ことはできないと思う。また、医療ジャーナリストとして、ホメオパシーを「1つの選択肢」として紹介するのであれば、きわめて問題のあるホメオパシー団体について注意を喚起してしかるべきであろう。



何のためのホメオパシーなの?

現代医学を否定しないとしても、私はホメオパシーを積極的には容認できない。代替医療はたくさんあるが、その中でもホメオパシーは、もっとも見込みのない部類に入る。原理的にはタダの砂糖玉である。「現時点ではエビデンスがなくても、将来は科学的に効果が証明されるかもしれない」と主張されることがあるが、その可能性は祈りやおまじないや魔法陣の効果が科学的に証明されるのと同じくらいだろう。いや、魔法陣については多分誰もまだ調べていないが、ホメオパシーについては既に調べられてプラセボと変わりないとわかっている分だけ、魔法陣に賭けるほうが分がよいかもしれない。私が末期癌になったとしても、ホメオパシーは選択しない。漢方や免疫療法のほうが、まだ可能性がある。代替医療に研究予算をつけようという話があるが、どの代替療法が見込みがありそうか、注意深く評価すべきである。現代医学の否定と結びついており、原理的にはただの砂糖玉と考えられるものよりましなものは他にある。個人的には、現代医学の範疇における先進医療で見込みがあるものがいくらでもあるのに、わざわざ代替療法に予算をつぎ込む必要性は乏しいと考える。



嘘の宣伝をするな

長野修氏の記事で、もっとも同意できた部分を以下に引用する。



もちろん[代替医療]に潜む危険性に対しては、常に目を光らせておかねばならない。それは、患者の弱みにつけ込んだ金儲け至上主義である。「がんが治る」という謳い文句を打ち上げて、サプリメントを売りさばく業者がいることは、残念ながら事実である。


なるほど、「がんが治る」という謳い文句を打ち上げて、サプリメントを売りさばくのは良くないことであろう。であれば、 「世界で最も安全な医療」「自然治癒力を高める」という謳い文句を打ち上げて、ホメオパシーを紹介するのはかまわないのだろうか?ホメオパシーが「自然治癒力を高める」という科学的根拠はない。他にも、「薄めれば薄めるほど効果は高くなるという」「レメディーを作る時に、激しく振って作るのだ。振ることによって効果が高まるという」部分も科学的根拠はない。紹介しているだけだから、断定ではないからかまわないというのであれば、「アガリクスは末期がんにも効果があるという」と紹介するのもOKということになる。この記事は、科学的根拠のない代替医療を宣伝する一つの見本になるだろう。

治療を諦めたくない末期癌患者の選択肢はあっていい。医療というのは、作用機序やエビデンスだけで推し量られるものではない。××療法は自然治癒力を高めるとされる。××療法をどのように捉えるかは、個々の判断にお任せしたい

これで、臨床的データがまったくなくても、記事が一本できあがりである。



レメディはわりと高価


なお、レメディー自体の価格は驚くほど安い。


記事に登場した小池医師が院長をしている小池統合医療クリニックのサイト*1によると、「初診料5250円 診察料(20分単位)5250円」のほか、「漢方・ホメオパシー等の場合は別途処方料(3150円)ならびに薬剤費(実費)が必要」だそうである。診察料、処方料はまあ、専門家の技術料であり、一概に高いとは言えないのかもしれない。薬剤費(実費)については、小池統合医療クリニックのサイトには具体的な記載がなかった。帯津三敬塾クリニックのサイト*2には「ホメオパシーレメディ:2,000〜6,000円です」とあった。ほぼ無限に希釈するわけだから、原材料費はタダのようなものである。さて、「レメディー自体の価格は驚くほど安い」と言えるのか。ちなみに、帯津三敬塾クリニックでは、「診療費 初診:18,000〜20,000円 再診:6,000円 」であった。患者の弱みにつけ込んだ金儲け至上主義に目を光らせておかねばならない


*1:URL:http://www.koikeclinic.com/clinic.html

*2:URL:http://obitsu.com/clinic_info.html