NATROMのブログ

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喫煙擁護「良識派」のレベルの程度

■良識派の見解(日本パイプクラブ連盟)経由で、サンデー毎日に「最近の行き過ぎたタバコ狩り、健康ファシズムの風潮を憂慮するコラム記事」が載ったことを知った。「ポイ捨て・喫煙禁止条例」において、違反者に2000円の罰金を科すことに「違和感」を表明するところまではまあよい*1。しかし、「ポイ捨て・喫煙禁止条例」の"根拠"が健康増進法であると推定した上で、能動喫煙の害は健康に「多分、良くないだろう」と認めつつも、受動喫煙の害を否定するのである。



■「たばこ狩り」の健康ファシズムに抵抗する!(牧太郎の青い空 白い雲)


しかし、たばこを吸う人間を排除するつもりはサラサラない。受動喫煙で人々ががんで死ぬ、という科学的な根拠がないからだ。WHOは喫煙者集団と非喫煙集団の特定疾病に関する死亡率や平均寿命・健康寿命を比較することで、間接的に「がん発病の証拠」としている。しかし、たばこの煙だけでラットやマウスががん・心臓病になったことはない。受動喫煙で人が死ぬというなら、もっとも喫煙率が高い日本人が平均寿命、健康寿命で世界一になるはずがない。WHOの判断には首を傾げる。


牧太郎氏は疫学を理解していない。WHOの判断に首を傾げる前に、ご自分の理解の程度が足りない可能性を考えるべきだ。牧太郎氏の理屈を用いると、受動喫煙の害ではなく、能動喫煙の害についても否定できることになる。能動喫煙で健康を害するのなら「もっとも喫煙率が高い日本人が平均寿命、健康寿命で世界一になるはずがない」と言わないのはなぜ?まあそう言っている人もいるわけで、そういう馬鹿と比較したら「良識派」ということなのだろう。

もちろん、受動喫煙の害は、疫学的に証明されている。まともな科学的思考能力を持った人で、受動喫煙の害を否定する人はいない。議論があるとしたら受動喫煙の害の大きさである。職場や家庭における長期間の受動喫煙と路上喫煙程度の受動喫煙は同列におけない。とはいえ「路上喫煙程度の受動喫煙に害があるという科学的な根拠がない」としたら、「ポイ捨て・喫煙禁止条例」の反論となりうるだろうか?まったくならない。

そもそも受動喫煙に健康上まったく害がないとしても*2、それでも路上喫煙は迷惑なのだ。その視点が牧太郎氏には決定的に欠けている。煙が臭い、火を振り回す、吸殻が汚い etc.。一部の喫煙者による、他人の「楽しい豊かな人生」を考えない振る舞いが、「ポイ捨て・喫煙禁止条例」につながったのだ。

「全面禁煙はやりすぎだ。全面禁煙ではなく分煙を」という要求は理解できる。ただ、科学の素養のなさをひけらかしつつ、非喫煙者への迷惑を省みない態度では、そうした要求は通ることはないだろう。喫煙の害を十分に理解し、その上で喫煙場所を要求する「良識派」もいるのだろうが、どうしても馬鹿の声が大きく聞こえるようで。


*1:口頭注意だけで違反者が反省するのであれば罰金なんて必要ないであろうが・・・

*2:たとえば、気管支喘息の人に対する急性の健康障害はあるんだけど