NATROMのブログ

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「尿でがん」ニセ検査キット摘発

ヤフーのトップページに、『「尿でがん」ニセ検査キット摘発』という記事が載っていた。


■「尿でがん」ニセ検査キット摘発、「陰性」信じ死亡例も*1(読売新聞)[容疑者の名前は引用者によりイニシャルに変更]


 発表によると、3人は2006年6月〜昨年12月、医薬品の販売資格がないのに、仙台市や大阪市内の健康食品会社などに、「CCD」「CCS」などと名付けた無承認のがん検査キット計約9800個を計約2200万円で販売した疑い。健康食品会社などは、全国各地の薬局に商品を卸していたという。
 同庁幹部によると、N容疑者らは、同キットについて、「尿に薬品を入れ、変化した色の濃さでがん細胞の有無がわかる」などと説明していたが、主成分は水銀とニッケルで、がん細胞には反応しないという。
 同キットを購入したがん患者が陰性反応を信じ、がん摘出手術を断るなどして、結果として死亡するケースもあったという。


てっきり、「がんSTOP音頭」の■細胞カラーチェッカー*2かと思ったけど、写真を見る限り、似ているが別物のようだ。けれども、本質的な問題点、つまり、根拠のない診断にともなう危険性があるという点は同一である。「陰性反応を信じ、がん摘出手術を断った」例が報道されている。また、毎日新聞では、がんの診断は尿検査ではできないことについて触れている。


■薬事法違反:がん検査キットを無許可販売、業者ら3人逮捕*3(毎日新聞)


CCDキットは、尿を調べるだけでがん診断ができるという触れ込みで販売していた。生活環境課が専門家に確認したところ、尿検査だけでがん診断はできないという。


強いて言えば、尿路系の癌ならば尿細胞診(尿中の細胞成分を顕微鏡で見る検査)で診断可能であるが、診断には知識と経験が必要である。「がんSTOP音頭」の細胞カラーチェッカーや摘発されたCCDキットのように、さまざまな癌が家庭でお手軽に診断できる技術は今の地球上にはない。もしそんな技術があるのなら、健康食品会社や怪しげなウェブサイト経由ではなく、普通の医療機関で検査を受けられるはずだ。「燃費向上グッズを最初に採用するのは自動車メーカー」と同じ論理で考えればよい。

癌と一口に言ってもさまざまな癌がある。血中腫瘍マーカーはさまざまな種類のものが使われているが、どの癌にも使えるマーカーは存在しない。なお、血中の腫瘍マーカーも、早期診断に使えるものはほとんどない。前立腺癌に対するPSAぐらいだが、検診で有用かどうかは賛否両論である。腫瘍マーカーの使用は、基本的には、治療効果判定、再発監視が主な目的である。


*1:URL:http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20080718-OYT1T00443.htm

*2:URL:http://d.hatena.ne.jp/NATROM/20080715

*3:URL:http://mainichi.jp/select/jiken/news/20080718k0000e040064000c.html