NATROMのブログ

ニセ医学への注意喚起を中心に内科医が医療情報を発信します。

わら人形を攻撃する小倉秀夫氏


元検弁護士のつぶやき■医療関係者に対する患者の暴力・暴言というエントリーにおいて、ブログ主のモトケンさんが「医師または病院関係者からの実情報告等」を求め、いくつか報告が集まったところ、



No.7 小倉秀夫さん | 2008年6月 8日 02:51 | CID 154477
匿名だと,どんな「体験談」でも創作できますね。


というコメントがついた。それまで出ていた「実情報告」は臨床医であれば、地域差もあるだろうが、自ら体験するか、あるいは体験した人の話を聞いたことがあるぐらいのレベルの信憑性はある。しかし、小倉秀夫氏に言わせれば、「医師たちに有利な方向に向けて世論を歪めるために一部の医師たちが全くの虚偽の事例を作り上げたり大げさな表現をしたりするモラルハザードの可能性も否定できません*1」とのこと。そういう可能性を言うのなら、実名で発表しようとも小倉氏を納得させるのは著しく困難であろう。そもそも、「医療関係者に対する患者の暴力・暴言」が話題になった経緯は、■医療ブロガーに関する匿名実名問題(元検弁護士のつぶやき)のコメント欄において、



No.136 国民を恨む医師団さん | 2008年6月 4日 00:41 | CID 153800
>>No.135 小倉秀夫さん
そういう法律論ではありません。文化大革命もカンボジアのクメールルージュも法にのっとって知識人を大量虐殺したわけではなかったでしょう。今の日本人にはとにかく医師が憎い、医師と名がつく連中を社会的に抹殺したい、いや実際に殺さないと気が済まないというルサンチマンが満ちあふれています。どんなに技術の粋を集めて心をこめて診療しても、結果が悪ければ殺される日本で医療をするのは無駄以外何物でもないでしょう。明日起きたら、国民が大勢、家の前で銃や刀を持って自分を殺しに集まってきているという悪夢に医師はどう立ち向かえばいいのですか?結局、日本を医療から崩壊させるしかないでしょう。



No.138 小倉秀夫さん | 2008年6月 4日 02:09 | CID 153807
医療の結果が悪かったとして患者又はその遺族が医師を殺害する事件は日本では聞いたことがありませんが。離婚訴訟絡みで弁護士が殺されることはたまにありますが。


というやり取りがあったことから。「患者又はその遺族が医師を殺害する事件」については複数の人から「小倉氏が知らないだけ」と突っ込みが入っている。国民を恨む医師団さんの発言に対しても「ここまでエキセントリックなご意見表明は、発言者以外の医師の方々にとって有益な結果を生むとお考えなのですかね」「国民を恨む医師団さん ていうのは小倉秀夫さんのマッチポンプかと思いましたけど」「国民を恨む医師団さん のコメントに真正直に対応するのは如何なものか」という批判的なコメントが。コメント欄の流れとしては、一人を除いては、「医師が殺害される例はあるにはあるが、医師を殺さないと気が済まないというルサンチマンが満ちあふれているというほどではない。殺人とまではいかなくても、医療従事者の士気を落とすだけの暴力はある」ということで合意できているように私は読んだ。その流れで冒頭で紹介した■医療関係者に対する患者の暴力・暴言というエントリーで「患者の暴力・暴言で退職した医療関係者、東京では273人」という記事を引用した上で、実情報告等募集となったのだ。

小倉氏による議論の仕方にはいろいろと問題点があるが、その一つに論敵が複数の人物であること、それぞれの意見には幅があること、をよく理解できてない点があるのではないか。novtan別館においても議論が行われているが、小倉氏はいまだに以下のように発言している*2



OguraHideo 2008/06/09 09:21
「今の日本人にはとにかく医師が憎い、医師と名がつく連中を社会的に抹殺したい、いや実際に殺さないと気が済まないというルサンチマンが満ちあふれています。どんなに技術の粋を集めて心をこめて診療しても、結果が悪ければ殺される日本で医療をするのは無駄以外何物でもないでしょう。」というのが間違いであるといいたいだけなのですが、それがもはや「空気の読めない」人間が行う一種の「タブー」と成り下がっている現在の日本のネット環境に不安を覚えますね。


国民を恨む医師団さんの発言が間違いだって認めていない人っているんですかね。小倉氏以外の人たちはそんな地点はとっくに通り過ぎているのだ。「結果が悪ければ殺される」とまではめったにいかないけれど、「医師を自主退職に追い込むほどの患者の暴力・暴言」はある。記事にもなっている。具体的にはどのような例があるんだろうと実情報告を求めて議論しましょうと、その段階だ。はっきり言えば、小倉氏のやっていることはわら人形論法の変形である。議論相手の一人が言ったことに対して、もはや誰もそれを論点にしていないにも関わらず、いつまでも同じことを言い続けているだけ。たまたま今回だけ小倉氏がそうした議論方法を使ったわけではないことを示すため、私が議論した事例を最後に提示する。保険医療制度が崩壊して医師は困るのか?という点について小倉氏と議論した。いくつか論点はあったのだが、その一つとして、「日本での医師の待遇が悪くなれば海外に働き口を求めればよいから、医師は困らない」かどうかという点。小倉氏の主張によれば、「日本の勤務医の平均年収は英国に比べると低いが、大陸諸国と比べると相当に高い」(■とりあえず、平均値で比較してみる。)、つまり「医療系コメントスクラムな方々が何かというと捨て台詞の一つに使う日本の医師の給料は国際的に見ると桁違いに安い云々というのが真っ赤な嘘であるということがはっきりしただけでも収穫はあった」(■皆保険制度でなくなったとき、医療業界は破綻するのかのコメント欄」)とのこと。これで、小倉氏は「自分はデータを出した」つもりになったらしい。しかしながら、その議論の場で、「日本の医師の給料は国際的に見ると桁違いに安い云々」と主張している人はいなかったのだ。そこで、



「医療系コメントスクラムな方々が何かというと捨て台詞の一つに使う日本の医師の給料は国際的に見ると桁違いに安い云々」というのは、私が知る限りではあまり聞きません。GDP比総医療費や人口当たり医師数、あるいは診療単価についてはありますが。あるいは、「(「国際的に見て」ではなく)アメリカと比較して安い」「海外ではありえないような激務にしては安い」というのはあります。ぜひ、「日本の医師の給料は国際的に見ると桁違いに安い云々」という医療系コメントスクラムの例を教えてください。そのコメントをした人に直接聞いてみたいので。


と私はコメントしたけれども、小倉氏による反論はなかった。おそらく、「医療系コメントスクラム」の中に、「日本の医師の給料は国際的に見ると桁違いに安い云々」というコメントはあったんだろうと思う。でも、それは主要な意見ではないし、別に間違いであっても全体としても議論にはさほど影響しない。ヨーロッパ大陸の勤務医の収入が日本の平均と比較して安いとしても、現在以上に日本の勤務医の待遇が悪くなれば、それでも海外に流出することはありえるだろうに。「日本の勤務医の所得水準が海外のそれに比べて著しく低いということはなさそう」。そうだろう。私も同意する。で、誰がそんなことを言っていたので?どうして目の前の議論相手を無視して、どこの誰の発言ともわからない「医療系コメントスクラム」に反論するのか?小倉氏が、ほとんど誰も同意していない「医師を殺さないと気が済まないというルサンチマン」や、その場では誰も主張していない「日本の医師の給料は国際的に見ると桁違いに安い」という主張に反論するのは、わら人形論法である。「空気読め」ってのは、タブーに触れるなってことじゃなく、単にその場の論点について述べろってことだと思うぞ。