NATROMのブログ

ニセ医学への注意喚起を中心に内科医が医療情報を発信します。

医療崩壊と相転移

兵庫や奈良や福島じゃないんだから北部九州はまだ大丈夫だろうと思っていた。甘かった。先日、入院患者さんを高次病院へ転院させるにあたって、4件に断られた。ちょっとややこしい病態ではあったが、平日の昼間の転院にここまで断られるとは。今まではこんなことはなかったのに。

転院調整に、だいたい2時間ぐらいかかりきりだった。電話して担当医を捕まえて病状を説明するまで5分間ぐらいだろうか。それから、ベッドに空きがあるかどうか確認していただく。空床確認にはある程度時間がかかる。いつ折り返しの電話がかかってくるか分からないので、まとまった仕事をはじめられない。時間がかかるようだと、患者さんに現状を説明しなければならない。

一発で転院先が決まれば、1時間半は時間を節約できた。転院を受けるほうも、同じだけ時間をロスしたことになる。高次病院への紹介だけでなく、高次病院からの紹介もスムースに行かなくなりつつある。以前、救命救急センターの医師が転院先探しをする記事を紹介した。余裕のある病院が少なくなればなるほど、こうした「余計な」仕事が増える。

最近、大阪大学の菊池先生が渋滞と相転移に関する論文を書いて、新聞記事にもなった*1。医療崩壊にも相転移があるんじゃなかろうかと思われるがどうか。どこの病院にもそこそこ空床があって、働いている医師にも余裕があったら、転院先探しのような余計な仕事が発生しないから少々イレギュラーな事態(たまたま重症患者がその医療圏で立て続けに発生する、など)が起こっても問題はない。

余裕が無い状態だと、ちょっとしたイレギュラーにも対応できない。転院調整などの余計な仕事に手間を取られ、ただでさえ忙しいのに仕事の効率がガタ落ちする。今は何とか個々の頑張りで何とかしている、いわば「過冷却」のような状態で、「医療崩壊」の相にいつ相転移してもおかしくない状態(地域や科によっては既に相転移した)なのではないか。