NATROMのブログ

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混合診療解禁で保険診療が縮小されるのはガチ

本日(2007年11月15日)の日本経済新聞の1面トップは「規制改革会議 混合診療、全面解禁迫る」であった。


 厚生労働省は「混合診療を全面的に認めると、医療の安全性が確保できない」と強く反発している。しかし規制改革会議は保険診療と保険外診療を併用できるようになれば患者の選択肢が増えるだけでなく、臨床が活発になって医療技術の高度化につながると判断。混合診療の規制を禁止行為だけを列挙した「ネガティブリスト方式」に移行し、実質的に全面解禁するよう求める方針だ。

ときに誤解が見られるが、厚生労働省は混合診療解禁に反対の立場。「医療の安全性が確保できない」というのはタテマエで、厚生労働省がコントロールできない保険外診療の部分が増えるのが嫌なのだ。もちろん、規制改革会議の「患者の選択肢」「医療技術の高度化」ってのもタテマエで、増えた保険外診療分で金儲けというのが本音であるのは周知の事実。日本医師会はこれまでは解禁反対の立場であったけれども今回はどうだろうか。診療所の初・再診料も下げられそうだし、ぼちぼち患者より自分たちの心配をせざるを得なくなるのではないか。

混合診療解禁に賛成する人の意見で、「選択肢が増えることはいいことではないか」というものがある。規制改革会議の言う選択肢は、「家を売って高度医療を受ける」か「死ぬ」かの選択肢なんだけど。ちなみに、家を売れない人には「死ぬ」という選択肢しかない。必要な医療は家を売らなくても受けられるようにするのが一番いいと思うけどな。むろん、あまりにも高額な医療をも公的保険でまかなうべきかという議論はありだけど、先進国で最低レベルの医療費しかかけていない現状ではまだ早い。

それに、混合診療が解禁されれば、いずれ保険診療は削られ、貧乏人が受けられる医療の質は低下する。それなりの収入がある人でも病気になったときのために民間保険に加入せざるを得なくなる。オリックス大もうけ。そのようなことを言ったら、「混合診療解禁がすぐに保険診療縮小につながるわけではない」と反論された。なるほど、可能性としては、混合診療を解禁しつつ、効果的な保険外診療を順次保険診療に組み込んでいくという制度もあるかもしれない。エビデンスが十分確立していない高度医療はまず保険外診療で行い、評価が確立し、コストが下がってきたところで保険適応を認めるのだ。

よさげに思えるが、まずそのようなことにはならない。そもそも混合診療を解禁しましょうと言っている人たちの目的は、保険診療を削って自分たちの取り分を増やすことにある。削れるだけ削ってくるに決まっているじゃないか。しかも彼らは、その目的を隠していないよ。むしろ、公的保険財政が改善するからこそ、混合診療解禁は良いと言っている。■「混合診療の問題点について」大阪府医師会 難波俊司副会長講演(大阪府医師会)や、■混合診療、解禁するとどうなる?(「やぶ医師のつぶやき」〜健康、病気なし、医者いらずを目指して)でも引用されているが、規制改革・民間開放推進会議の官製市場民間開放委員会が作成した資料*1を見てもらえば一目瞭然である。



「本来目指すべき制度」ってところに注目。奴ら、保険診療削る気まんまんだよ。現状ですら先進国最低レベルの医療費なのに、さらに削減したらどうなるのだろうね。


*1:内閣府 規制改革・民間開放推進会議のサイト内のURL:http://www8.cao.go.jp/kisei/minkan/giji/01/kansei01/3.pdfの2ページ目