NATROMのブログ

ニセ医学への注意喚起を中心に内科医が医療情報を発信します。

医師専用掲示板の運営

エムスリー(m3.com)というサイトに医師専用掲示板がある。使いにくいのであまり書き込みはしていなかったが、医療関係の報道のときなどに専門家がコメントしたりするので重宝していた。ところが奈良大淀病院事件に関し、診療情報の流出が疑われたり、あるいは「妊娠したら健康な児が生まれて、なおかつ脳出血を生じた母体が助かって当然、と思っているこの夫には、妻を妊娠させる資格はないッ!」などという投稿が問題視されたりしたせいか、掲示板が一時停止されていた。

問題とされた投稿の妥当性については他のサイトでも言及されている*1からここでは省略するとして、ここで注目するのは掲示板の管理者たるエムスリーの対応である。2ちゃんねるではあるまいし、放置というわけにもいくまい。で、5月30日に掲示板再開となったのだが、どうなったか。

エムスリーのとった運営方針は、「怪しい投稿は全削除」であった。もうそれはキッパリとすがすがしい位に。(■m3は二度死ぬ(ssd's Diary)、■再見!m3言論圧殺掲示板!(がんばれあかがま)も参考に)。患者を中傷する投稿(ていうか、正確には「医師ではない人からは患者を中傷しているようにとられかねない投稿」なのだが)はもちろんのこと、マスコミ批判や、削除に対する抗議、他の医師掲示板への誘導、エムスリーの脱会の方法など、かたっぱしから削除しまくっている。しかも対応が迅速で、早ければ2-3分で削除されているらしい。また、今日の朝までは「削除されました」と表示されていたが、今では削除された跡もわからないような仕様になっている。

エムスリーの対応は理解できる。理想としては、明確な中傷や個人情報の削除は行なうとしても、医学的知識に基づいた議論や正当なマスコミ批判は削除は行なわないで欲しかった。しかしながら、管理者として訴訟にまきこまれるリスクを看過できなかったのであろう。一企業の掲示板であるからして、その運営は自由に行なってよい。掲示板の運営方針が嫌なら参加しなければよいのだ。これまでは医師しか参加していないという前提のもと、それなりに有意義で活発な議論がなされていた。参加者が多いこともあり2ちゃんねるのような様相も一部呈していたけれでも、S/N比はきわめて高かった。これからは「オープンかつ率直な意見交換」は許されず、「お上品な」投稿だけになる。それを嫌って退会する会員もいるだろうが、削除にかけるコスト+退会による損失が、訴訟リスクより小さければ、エムスリーの運営方針は正しいということになる。

削除に手間がかかるのは最初のうちだけで、根負けせずに削除を続けていたらそのうち投稿者はあきらめて別の掲示板に流れる。大多数にとっては、退会手続きは面倒だし、エムスリーには掲示板以外のコンテンツもあるので、退会せずに残る。投稿者を守る方針を明確に打ち出したライバルの医師専用掲示板でもできない限りは、それなりにエムスリーの掲示板はうまくいくかもしれないぞ。エムスリーは東証1部に上場している。週刊誌報道の影響か、最近は若干株価が下がっていた(写真)。この運営方針でうまくいくと思う方は、いっちょ買ってみてはどうか。私は(まだ)買わないけど。

*1:■物証発見(新小児科医のつぶやき)、■患者を侮辱する医者向けサイトの大ゴーマン 週刊文春(産科医療のこれから)