NATROMのブログ

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ネットワーク科学とmixi


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■複雑な世界、単純な法則 ネットワーク科学の最前線 マーク・ブキャナン (著), 阪本 芳久 (翻訳)

アメリカの心理学者のミルグラムが行った、手紙を仲介してもらう実験は、どこかで聞いたことがあると思う。


…ミルグラムは、カンザス州とネブラスカ州の住民から何人かをランダムに選び出して手紙を送りつけ、その手紙をボストンにいる彼の友人の株仲買人に転送してほしいと依頼した。ただし、友人の住所は知らせなかった。手紙を転送するにあたっては、それぞれの個人的な知り合いで、その株仲買人と社会的に「近い」と思われる人にだけ送るように頼んだ。最終的には、なんと手紙の大半がボストンの友人のもとに届いたのである。けれどもさらに驚かされるのは、手紙が着いた速さだった。手紙の多くは何百回も投函されてではなく、六回前後で着いたのだ。アメリカには何億もの人がおり、そのうえ、ネブラスカもカンザスも社会的にはボストンからかなり隔たっているから、この結果は信じがたいように見える。ミルグラムの発見は有名になり、多くの人が「六次の隔たり(six degrees of separation)」という言葉で口にするようになった。

この実験は、ときに誇大に(「世界中のすべての人について6次の隔たりでつながっている」)捉えられることもあったが、直観よりも世界は狭く見えることは確かである。こうしたネットワークを扱う科学について本書は述べている。新しい分野の科学は、これまで無関係と思われていた複数の事象に単一の説明をつける。ニュートンはリンゴの落下と月の公転を一つの力で説明した。ネットワーク科学は、何を説明するだろうか。

本書によれば、生態系(食物連鎖)、細胞内での分子の相互作用、蛍の明滅の同調、感染症の流行、そしてもちろんインターネットがネットワーク科学の対象である。それぞれの事象は異なっているし、細部は複雑である。しかし、完全にランダムでもなく、かといって規則的でもないネットワークの根本のところには同じ単純な法則をみることができる。著者のブキャナンは理論物理学の研究に携わったのち、ネイチャー誌やニューサイエンティスト誌の編集をやっていたそうだ。こうした学際的な分野の本を書くには、特定の分野の専門家よりも科学雑誌の編集者の方がよいのだろう。

ちょうど本書を読み終わったころ、Kosukeさんが■mixiGraphという、mixiでの人脈を図示するソフトをmixiの日記で紹介していた。なるほど、これは面白い。隔たり指数も表示されるので、ある特定の人と自分がどれくらいの友人を介して繋がっているのかがわかる。近いところにいる有名人は皆神龍太郎とは隔たり指数2、山本弘とは隔たり指数3であった。この辺は懐疑主義系繋がりだ。

「6次の隔たり」の話がmixiでも通用するとしたら、mixi参加者の誰とでも隔たり指数6以下であるはずだ。適当にIDを入力した人(つまり全然知らない人)と距離6以下で繋がるはずである。mixiGraphは網羅的に人脈を調べるわけではないので、手動でガシガシクリックする必要があるが、これまで試してみた限りでは、なるほど、おおむね距離6くらいでなんとか繋がるようだ。距離4では少なすぎるし、距離8は余裕すぎるようである。友だちの友だちの友だちくらいには、マイミク200人とかいう人がおり、自分と繋がりのある人は莫大な数になる。mixiGraphで遊んでいるとネットワークについて理解が深まるような気がする。