NATROMのブログ

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バナナの叩き売りの心理学

近所の中学校で夏祭りがあるというので、チビを連れて行く。私の母校である。久しぶりに、中学生のころ通っていた通学路を歩いた。20年ほどは経っているのだが、思いのほか変わっていない。夏祭りの会場では、なぜがバナナの叩き売りを実演していた。生では初めて見た。諸君らは、バナナの叩き売りがどのようなものかご存知であろうか。売り手が値を段々下げていって、客が一人でも手を挙げた時点で値段が決まる。複数の客が同時に手を挙げたら、声の大きかったほうの勝ち。


「はい500円500円500円500円500円、450円450円450円450円450円、400円はいそこの兄ちゃん、売った」
てな感じ。客がみな示し合わせていたら、かなり安い値段で買えるはずなのだが、一人でも抜け駆けがいたらそううまくはいかない。囚人のジレンマである。というか、実際に見ていると、まだかなり高い値のところで手を挙げる客がいる。もちろん、売り手は売り物のバナナがいかに高級で美味しいのか述べるのであるが、バナナが高級である時代はもう遥か昔なのである。ちょいと高級なバナナであっても、近所のスーパーで買えるのだ。バナナの値段については、カブトムシ捕獲作戦でいくつかスーパーをまわったので良く知っている。バナナの叩き売りでは、明らかに割高な値段がついていた。

客が大人であれば「バナナの叩き売り」という芸に対するご祝儀を含むのであろうが、買い手は主に小中学生であった。今の子供たちはお小遣いはそれなりにもらっているのであろうが、しかしバナナや芸に無駄金使えるほど潤沢にもらっているわけではなかろう。思うに、客同士の競争を煽ることが高値がつく理由なのであろう。今この瞬間手を挙げなければ、別の客が手を挙げて、自分がバナナをゲットするチャンスがなくなる。そう思わされるがゆえに、少々高くても手を挙げてしまうのだ。在庫のバナナは隠されていたが、それも理由があってのことだ。まだバナナはたくさんあると客に知られると、十分に値段が下がってからでないと手を挙げなくなる。

バナナが飛ぶように売れているのを見て、催眠商法というのは、こういうものであろうなあと思った次第である。念のために言っておくと、今回の売り手は芸を見せに来たのであってバナナで利益を上げようとは思っていなかったのであろう、明らかに割高な値段で思わず手を挙げてしまった子供に対して、本来ならルール違反なのだが、かなりの値引きをして売っていた。