NATROMのブログ

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Flying Spaghetti Monster説を子供たちに教えよう

■地球温暖化と海賊(医学都市伝説)経由。

まあよくありがちな主張として、「学校では進化論と創造論の両方を教え、どちらを信じるかは生徒自身によって決めればよい」というものがある。一見、公平な提案のように見える。実際、アメリカ合衆国のキリスト教保守層の影響が強い州では、何度かそのような提案がなされている。アメリカ人の「フェアプレー精神」に訴えるという戦略であろう。反論としては、「キリスト教の創世記以外の、世界のさまざまな創造神話は教えなくてもよいのか」というのが考えられる。

それぞれの民族は、多種多様な創造神話を持っており、それらが真実であると深く信じている人もいるであろう。生徒は多様な見方を教えられるべきだというのであれば、どの創造神話を教えて、どの創造神話は授業から除外すればよいのか。その基準は?文化人類学を教えようとするならばともかく、アメリカ合衆国で問題になっているように、科学の授業時間で教えられるべき説を選ぶのであれば、基準は科学的に妥当であるかどうかだ。創造論(およびその他の民族の創造神話)は、科学の授業では教えられるべきではない。(創造論者のデマを真に受けて誤解している人もいるが)、進化論は教科書に載せ学校で教えられてよいくらいには確立した科学上の学説である。一方、創造論はそうではない。

最近は、創造論側も、宗教色を薄めた「インテリジェント・デザイナー説」を持ち出しているが、基本的なところは変わらない。科学で説明できない(ように見える)ところに神(もしくはインテリジェント・デザイナー)を持ち出しても、それは科学ではない。むろん、神(もしくはインテリジェント・デザイナー)を信じるかどうかは自由だ。聖書の創世記を信じようと、父なる大カラスが世界を作ったというエスキモーの神話を信じようと、自由であるのと同じように。しかしながら、科学の授業時間に教えられるべきかどうかは、まず科学であるという基準を満たすかどうかで判断されるべきである。

米国カンザス州教育委員会の保守派が、進化論以外の理論も教えるべきと主張、同委周辺で論争が起こっているとのこと。(また、カンザスだよ!)。科学者の間で論争になっているのではない。論争は政治的なものだ。保守派に対する批判は、本来ならインテリジェント・デザイナー説の科学的妥当性を問うべきであろうが、別の切り口から試みている人もいる。

■OPEN LETTER TO KANSAS SCHOOL BOARD(カンサス教育委員会への公開質問状)

Flying Spaghetti Monster(写真)がこの宇宙を創造し、その証拠もあるそうだ。「生徒に多様な見方を教えるべきである」という理由でインテリジェント・デザイナー説が生徒に教えられるべきならば、当然、Flying Spaghetti Monster説も教えられるべきである。既存の創生神話ではなく、オリジナルの空飛ぶスパゲティモンスター(しかも何だかかわいい)にしたところがポイントだと私は思うのだ。