NATROMのブログ

ニセ医学への注意喚起を中心に内科医が医療情報を発信します。

犯罪者DNAデータベースの功罪

■DNAデータベース“初手柄”、わいせつ犯の余罪特定(読売新聞)


 帰宅途中の女性に乱暴したとして、大阪府警に強制わいせつ致傷容疑で逮捕、起訴された東大阪市の運転手、Y被告*1(21)のDNA(デオキシリボ核酸)が、警察庁の「DNAデータベース」による照会で、奈良県内で昨年7月に起きた婦女暴行事件の遺留物と一致したことが20日、わかった。
 全国の事件現場に残されたDNA情報を集めた同データベースは昨年末に運用が始まったが、容疑者特定につながったのは初めて。府警はY被告を婦女暴行容疑などで再逮捕する方針だ。
 調べでは、Y被告は5月2日、同市内の路上で女性(20)に暴行したとして枚岡署員に緊急逮捕された。
 府警は、余罪があるとみて、Y被告の血液からDNAを採取し、同データベースに照会。その結果、昨年7月下旬、奈良県内で無職少女(18)が車に連れ込まれて乱暴された婦女暴行事件の現場に残されていた体液のDNAと一致した。府警が追及したところ、Y被告も犯行を認めたという。

以前の日記でとりあげたように、犯罪者のDNAデータベースについては、不正利用の危険もあるが、メリットのほうが大きいというのが私の立場。ただし、誰をDNAデータベースに登録するかという点については議論があってよいと思うし、慎重論が出るのも理解できる。

しかし、いくら慎重な立場をとる人であっても、性犯罪者のDNAをデータベースに登録するのに反対する人はよもやいないだろう。仮にY被告が刑期を終えて社会復帰したとして、同様の犯罪を行えばすぐにY被告の犯行であると特定される。コンドームをつけていても、髪の毛一本落ちたり、被害者が爪で引っかいて皮膚の一部が残ったりしたら、それでわかる。それでもやる奴はやるかもしれないが、DNAデータベースがないよりかはあったほうが犯罪の抑制になると思う。これが性犯罪ではなく、もっと軽い犯罪(たとえば万引き)の場合は、DNAデータベースに登録するのは妥当だろうか?犯罪者ではなく、単に容疑者である場合は?なにげに、


警察庁は、DNA情報を指紋と並ぶ個人識別の決め手と位置づけ、捜査過程で容疑者から採取したDNAも、8月からデータベースに加える方針だ。

ってあるのが気になった。仮に全国民のDNAをデータベース管理できたとすれば、犯罪捜査にはものすごく役には立つだろう。しかしながら、国民の同意がない限りこのようなことは許されるはずはない*2。容疑者のDNAを登録ってのも、なんらかの手続きを踏んでいないとまずいように思うのだが、調べてみると、「警察庁では採取や鑑定が法的手続きを踏んでいることから、データベース化は問題ないと判断した」とある(■DNAデータベース 容疑者の型情報登録産経新聞 - 6月2日)。

ぶっちゃけて言うと、ちょっと政治的に偏りのある人たちが「人権侵害だ!政府による管理だ!」とか言いはじめるのは目に見えている。そうした人たちが、「なんだかよくわかんないけど怖い」という人たちを巻き込んで反対運動なんか起こして、有用な犯罪者DNAデータベースの運用に支障が来たすなんてことがあるかもしれない。そういうことのないよう、なしくずしに容疑者のDNAまで登録してしまうの行き過ぎなんじゃないかって私は心配しているのだ。

*1:引用者注:引用者によって被告の実名をイニシャルに変換した。

*2:全国民のDNAデータベース管理に賛成か反対か投票せよというのなら、私は賛成する。別に私のDNAを登録されたって私は別に困らないもの。そんなんで犯罪が減るのならいくらでも登録する。しかしながら、国民投票で過半数が賛成だったからといって、全国民にDNAデータベース登録義務化するってのはまずいように思う。同意した人だけが登録するってのはどうだろうか。「DNAデータベースに登録している」ということが、「私は犯罪者になりません」という意思表示とみなされるのだ。そういう社会がよい社会なのかはやっぱりわからないけど。