NATROMのブログ

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先読みを先読みする

■美人投票で相場に勝つid:tazumaさん)より。


もう一ひねりできないか。例えば少し違うヴァージョンの美人投票(JPE、2004、Camerer,Ho,Chong)を考える。ルールは簡単で、0から100までの数字を同時に選んで、平均の2/3に最も近い人が、自分の選んだ数かける1000円をもらえるとする。まず、あなたが思慮深ければ68以上を選ぶことはない。で、次にあなたが他の人もそこまでは合理的だと考えるなら、46以上を選ぶ理由もなくなる...... 以下同様....。 という風に突き詰めていくと、もしあなたが合理的で、かつすべての人が合理的であることを知っていて、かつ、すべての人が「すべての人が合理的であることを知っている」ことを知っていて......という場合は、1あるいは0が唯一残されたチョイスになる。もちろん実際にこのゲームをやらせてみるとそうはならない。大体平均して20か30のあたりに落ち着く。というわけで、実際はゲームのプレーヤーは上の意味で合理的ではないわけだが、では、はたして彼らはどれだけ「非合理的」なのか?

プレーヤーのすべてが合理的であるはずもなく、よってこのゲームの予想はつきがたい。前に紹介した、「天才数学者、株にハマる」でも、似たようなゲームが紹介されていた。


人を集めてそれぞれ0から100の間の数字を一つ、皆同時に選んでもらうとしよう。その際、皆が選んだ数字の平均の80%に一番近いと思う数字を選んでもらう。一番近い数字を選んだ人は、賞金として100ドルもらえる。自分がどんな数字を選ぶか、ここでしばらく考えて見てほしい。
人によっては、選ばれた数字の平均は50になるだろうと考え、その80%にあたる40を選ぶだろう。人によっては、他の人たちは40を選ぶだろうと先読みして、その80%の32を選ぶかもしれない。さらに、他の人たちはそういう考えに沿って32を選ぶだろうから、自分は32の80%である25.6を選ぶという人もいるかもしれない。

先読みの程度によって答えが変わりうるというわけである。id:tazumaさんの紹介した論文によれば、「実際のトレーダー、CalTechの学生、ゲーム理論家」が先読み度が抜きん出て深く、「NYtimesなどのメジャーな新聞の読者などもそこそこ」であったとのこと。他の参加者がどういう人かによっても、ゲームの解は変わるわけだ。ゲーム理論の学会で同様のゲームを行うのであれば、他の連中は深く先読みをしてくるはずで、ゆえにゲームの解は小さくなるはずなので、自分の答えは小さめにしたほうがよい。ということを他の連中も考えるはずなので…

逆に言えば、他の参加者はみなボンクラでそれほど先読みはしないだろうと思っている人は、答えを大きめに答えるであろう。実際のゲームで2先読み以上の人はあまりいないらしいが、2先読み以上しないというよりかは、先読みをしない人のためにゲームの解が大きくなることを先読んでいるのではなかろうか。よく考えて見れば、株の売買は、相手をボンクラとみなさないと成立しないはずだよな。自分が株を買う(売る)ときは、今後その株の値が上がる(下がる)と考えているわけで、売買相手はこれから上がる(下がる)株を売ろうとしてるってことだよね。

あと、上記引用している2つのゲームのルールはほとんど同じだけれども、ゲームの報酬のみ異なる。これは結果に影響してくるのかな?前者は、「自分の選んだ数かける1000円をもらえる」。後者は、「100ドルもらえる」。前者は、賞金は変動制だ。0とか1とか当てたってしょうがない。可能性は低くても、もちっと大き目の数字を予想すべきではないか。ということを他の参加者も考えているのではないか。ということも他の参加者は考えているのではないか…。一方、後者であれば、ゼロと予想すればゼロと答えて100ドルもらったほうがいい。とうぜん、ゲームの解は前者のほうが高くなることが予想できる。対象集団をいろいろ変えて実験してみたら面白いだろう。ウェブ上なら比較的容易にできるのではないか。正解に一番近い人は、はてなポイント1000点とか。