この日記を書いている「はてな」は、もともとは人力検索サイトである。通常の検索エンジンでは探せないような情報を、対価(といっても、はてなポイント)を払って誰かに提供してもらう。うまく当たれば便利だけれども、詳しい人ではなくポイント目当ての素人が回答しちゃったりする。たとえば、以下のような質問がなされる。
Good questionだと思う。で、aki73ixさん(自称「生化学の専攻」)の答え。
白血球の血液型のタイプが同じ事と、遺伝子の型が似ていることは全く違います
人間のDNA情報は約3313万有りますが、骨髄液は150種類x数百タイプの数万通りDNA情報としては数十が一致したのに過ぎないのです
血縁が近いもの同士が結婚したときに、こどもに障害が出る可能性が高い理由は、例えば、兄弟の場合は,DNAの1/4が同じになります、
もしも、異常なDNA情報があっても、それが劣性遺伝であれば、表に出てこないので、見た目は健常者と変わりません
ところが、劣性遺伝で表向き出てない障害を兄弟が持っていた場合、相手も持っている可能性が1/4あるわけで、子供が劣性遺伝で障害が発言する可能性が1/4になるわけです
つまり、これが障害がある子供が生まれる可能性が非常に高い理由です
ところが、骨髄液の型が一致しても、それは障害をもつDNAが一致するわけではありませんから、心配はありません
いろいろ不正確で、でも結論だけは正しい。「人間のDNA情報は約3313万」ってのから意味不明である。遺伝子の数なら2-3万個だし、塩基対なら約30億塩基対。aki73ixさんが提示したリンク先(■猿は、いつ人間になるの?*1)に、「塩基という、いわば遺伝情報を記す文字の数はチンパンジーでは約3280万、人は約3313万だった」とあるので、そこから数字を拝借したらしい。ただし、それは21番染色体の話。21番染色体の話を、「人間のDNA情報」として書くのは不正確でしょう。
すでに別の人がツッコミ入れているけれども、「兄弟の場合は,DNAの1/4が同じになります」ってのは間違い。aki73ixさんは、「ある特定の遺伝子座において、同じ両親から生まれた同胞*2の遺伝子型が一致する確率*3」のことを言っていたらしい。でも、劣性遺伝病が近親婚で生じやすい理由を説明するときには不適切だろう。同胞の片割れが稀な劣性遺伝病の原因となる対立遺伝子を持っていた場合、もう一方の同胞がその対立遺伝子を持っている確率は1/2である。同胞間の血縁係数(近縁度)は1/2と言ってもいいし、ゲノムDNAの1/2が一致している(同祖的である)と言ってもいい。
実際に同胞婚で劣性遺伝病が発現する確率は、遺伝子座の数と、それぞれの遺伝子座における劣性遺伝病の原因遺伝子の遺伝子頻度に依存する。健常人であっても、潜在的に劣性遺伝病の原因遺伝子を数個は持っていると言われている。任意交配(赤の他人との結婚)の場合、数万個ある遺伝子のうち数個について、たまたま配偶者も同じ劣性遺伝病の遺伝子を持っている確率はきわめて低い。ゆえに、任意交配においては、劣性遺伝病が発現する頻度がきわめて小さい。一方、近親婚であると、相手が同じ劣性遺伝病の原因遺伝子を持っている可能性が増す。そのため、近親婚では劣性遺伝病の子が生まれる可能性が高いのだ。
「骨髄液の型が一致しても、それは障害をもつDNAが一致するわけではありませんから、心配はありません」という結論部分は正しい。「骨髄液の型」よりも「HLA」、「障害をもつDNA」よりも「劣性遺伝病の原因遺伝子」とするほうが、より適切だと思う。赤の他人同士で、たまたまある一遺伝子が一致したとしても、そこ以外の遺伝子が似ていると期待する理由はない*4。この質問にはすでに■ツッコミ入っていて、そちらの議論を読んでいるほうが楽しい。「専門でもないロクに知りもしない事を、さも知っているようなフリをして想像で答えないで頂きたい」とか言われている。結論は間違っちゃいないんだから、そこまで言わんでもよさそうなものなのだが、いろいろ因縁があったようで。