NATROMのブログ

ニセ医学への注意喚起を中心に内科医が医療情報を発信します。

浮気を遺伝子のせいにする男

前にちょいと書いた、動物行動学者のドラマ「不機嫌なジーン」を見た。テンポが良くて面白かったぞ。竹内結子が大学院生、蒼井仁子(よしこ)を演じる。仁子→ジンコ→ジーンなんだね。ぜんぜん女ドリトル先生じゃなかったぞ。内野聖陽の南原教授が元彼氏。刷り込まれたヒナが後をついて歩くという展開はなかったけど、ヒナが孵化するところを見ていい感じというシーンはあった。

個人的に萌えたシーン。回想シーンにて、浮気の現場をおさえられた男(南原教授)が言い訳する。ドーキンスの「利己的な遺伝子」(留学中のイギリスでという設定だから、原著のThe Selfish Geneの1989年版のやつ)を持ち出してきて、遺伝子は自らのコピーを増やそうとするんだ、生物は遺伝子の乗り物なんだ、と。


俺だって浮気なんてしたくない。しかしこれは遺伝子の見えざる意志だ

俺は悪くない、悪いのは遺伝子だ、というわけ。遺伝子のせいだとしたら、遺伝子をばらまくチャンスがあれば、また浮気するってことだよね。浮気の言い訳としてはちょっとどうかと思うが。案の定、


Selfish Geneを浮気の言い訳にするなんて最低

と言われて、(その場では)別れちゃうんだけど。まったく最低ですな。結構誤解している人がいるだけれども、「利己的な遺伝子」は人間の行動を説明しているわけじゃない。どのような意味においても、ドーキンスが遺伝子決定論とか遺伝子至上主義とか呼ばれる立場をとったことはない。仮に遺伝子が浮気を仕向けていたとしても、人間がそのまま操られることなんてないのだ。さらに言うなら、遺伝子が決定論的な作用を示す種が存在したとしても、オスが常に浮気をするわけではない。メスと協力して子育てをするという「誠実」な戦略も、状況により成功する。主人公は、動物行動学の教授のくせにドーキンスを理解していない男を笑うべきであった*1

*1:南原教授は、理解していないのではなく、とっさにデマカセ言っただけかもしれない。でも、言い訳の相手は素人さんじゃなく、動物行動学を専門に勉強している学生なんだぞ。チミの教え子は、そんな説明に納得する馬鹿かい?まあ馬鹿そうではあったが