NATROMのブログ

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DNA鑑定はどこまで許されるのか?

■46歳の子「実子じゃない」…産院で取り違えと提訴


 訴状によると、男性は1958年4月に都立墨田産院(88年に閉鎖)で生まれ、この夫婦の長男として育てられた。男性は「両親と顔や体格が似ていない」と思っていたが、約20年前に子供が生まれたのを機に、夫婦に持ちかけて血液検査を受けた際、「親子としては血液型が合わない」と指摘された。
 さらに今年5月、男性と夫婦が血液によるDNA鑑定を受けたところ、夫婦の子供ではないとの結果が出たため、「生まれた時に産院で取り違えられたとしか考えられない」として、提訴した。代理人弁護士によると、男性は「本当の親を知りたい」と話しているという。
都側の答弁書の「この産院で過去に取り違えはなく、あり得ない」って論理もどうかと思うが、男性側が勝つのは難しいように私には思える。しかし、たとえば、この産院で同日に生まれた人が夫婦の実の子どもと鑑定できれば、取り違えが証明できる。そんなことをして、誰かがハッピーになれるかどうかは疑問だが。

今後、同様の問題が生じてくるだろう。取り違えはきわめて稀であろうが、不貞による子というのはいるものだ。不貞の子かもしれないと疑う父親も。本人に無断でDNA鑑定を行うことはプライバシーの侵害として問題外だが、疑い深い夫が、妻と子にDNA鑑定を要求するのは、どこまで許されるのだろうか。妻は拒否するかもしれないが、拒否したという事実そのものが、疑いをより深くしてしまう。また、本人(夫)と子のDNAがあれば鑑定は可能だが、妻の承諾なしに子のDNAを鑑定するのは許されるのか。

異常死した遺体の身元を特定するためにDNAを鑑定することは今でも行われているが、本人の承諾は当然とれない。家族(と思われる人々)の承諾があればいいのか。A男とB子の夫婦の息子であるC男のものと思われる遺体のDNAを鑑定した結果、実は、B子の息子ではあってもA男の息子じゃなかったなんてことがわかってしまうかもしれない。B子はDNAを鑑定を拒否できるのか。