NATROMのブログ

ニセ医学への注意喚起を中心に内科医が医療情報を発信します。

救急車有料化

■タクシーじゃない!救急車要請急増に都が有料化検討も(読売新聞)
利用急増の原因の一因として、都会で独居老人が増えていることが記事では述べられているが、さらに


 その一方で、救急隊員が現場で戸惑う事例も増えている。東京消防庁によると、「具合が悪い」「腹が痛い」といった要請で駆けつけたものの、症状を確認すると「独り暮らしで寂しかった」「1人で病院に行くのが不安だった」などと打ち明けられ、そのまま引き揚げるケースもあるという。
 さらに、救急車をタクシー代わりに使おうとする例もしばしばあり、50代の男性は「9時から入院することになっている」と病院名を指定して出動を要請、衣類を入れた紙袋を手に持って待っていたという。
 「歯が痛い」と夜間に要請してきた20代の女性は「診察してくれる歯科医院が分からないから」と説明した。忘年会のシーズンには、酒を飲み過ぎた人からの救急コールも多い。
 こうした現状に対し、同庁は「要請を受けた段階では緊急性の有無を判断できず、まずは駆けつけるしかない」と頭を抱える。実際、搬送者の症状を分析すると、昨年は生命に危険がない軽症者と中等症者が全体の9割以上を占めた。
「歯が痛い」のはしょうがないだろう。救急病院を紹介し、出動しなければよい。急性アルコール中毒も、内心はいい気はしないが、処置が遅れると死ぬこともありうる。まあOK。「独り暮らしで寂しかった」てのはさすがにNGか。タクシー代わりってのは論外。まれにはいる、こういう人。まず、優等生的なコメントを述べとこう。大半の人にとっては、救急車ってのはどうしようもなくなってから呼ぶものなのだ。仮に有料化したとして、そのために本当に救急車を必要とする人が呼ぶのをためらい、結果として手遅れになることも考えられる。ごく一部のマナーの悪い利用者のために、潜在的な利用者が犠牲になってはならない。救急車の有料化はいかがなものか。

ま、それはそれとして、とんでもないことで救急車を呼ぶ人ってのは存在する。あらかじめ言っておくけど、医者からみて結果的に軽症だったってのはそれには該当しない。軽症か重症かってのは医者に診せるまではなかなかわかんなかったりする。たとえば、尿路結石による腹痛で、搬送中に石が落ちたせいで腹痛が消失した場合、入院を要しない「軽症」に丸をつけることになる。でもこれって、救急車を呼んでもかまわないケースだ。「生命に危険がない軽症者と中等症者が全体の9割以上を占めた」というだけでは、救急車の利用マナーが低下したとはいえない。一般的に言えば、「この位で救急車呼んだら怒られるかも」と迷うぐらいなら、救急車を呼んでもいい。とんでもない人ってのは、「この位で救急車呼んだら怒られるかも」とすら考えられない人なのだ。

最終的に搬送されてきた人しか医師は診ないので、救急隊はさらにとんでもない人に遭遇しているのだろう。正直言えば、そういう「必要ないのに救急車を呼ぶような困った人」からは金取っちゃえって思わないでもない。それだと、誰かが(たぶん医師が)、症例ごとに救急車が必要であったかどうか判断しないといけない。面倒だし、トラブルの元になる。有料化の前に、教育を考えたほうがよいのではないかと思う。「こういう場合は、救急車を呼んでもよい。こういう場合は自分でタクシーを呼ぶなりして、自分で救急病院へ行きましょう」という感じ。それになにより、救急車や救急病院ってのは、公共の資源であるということ、ある人が利用していたら別の人(その人は今すぐ救急車が利用できないと死ぬかもしれないのだ)が利用できないことになるってことを、もっと分かってもらいたい。救急車はタクシーではないし、夜間外来はコンビニではない。