NATROMのブログ

ニセ医学への注意喚起を中心に内科医が医療情報を発信します。

献血の思い出

献血ルームがあったら、そうっとのぞいて見てごらん。医者が血圧を測っているよ。病棟がクソ忙しいのにアルバイトで来させられている研修医や、研究でクソ忙しいのにアルバイトで来させられている大学院生だったりする。だから、居眠りしていたり、論文を読んでいたりしても許してね。バイト代はそれほどよくはなかったが、それなりに楽だった。前にも言ったが、実は誰にでもできる。血圧は自動血圧計が測ってくれるし、問診はマニュアル通りにやればいい。というようなことを、

Do you think for the future?■赤血球成分献血導入?

を見て思い出したりした。で、tf2さんの疑問。


献血のメニューが増えるのは良いことのようにも思えるが、一方では、誰がどうやって献血の種類を決めるのか? 現状でもいろいろと問題がありそうだけど、献血現場でのメニューの選び方について、もっとオープンでわかりやすく納得のいく仕組みが必要な気がする。

当時のメニューは、400cc、200cc、成分献血だった(今もそうか?)。私の行っていたところでは、「ポテトはいかがですか?」というノリで、「成分献血はいかがですか?」と看護婦さんが勧めていた。どうやらノルマのようなものがあるらしく、できれば成分献血をして欲しかったようだ。一度、「先生も成分献血はいかがですか?」と勧められ、やってみたことがある。ゆったりとした椅子に座って、ぐっすりと眠れてなかなかいい感じだった。でも、その間、私の仕事は誰がやっていたんだろ?医者なんかいなくったって問題ないってことですな。

献血のアルバイトは献血ルームだけではなく、献血車を持ってってドサまわりみたいなこともやる。みんなも、街頭で献血をお願いされたことがあるだろう。献血車では成分献血はできなかったので、メニューは400ccと200ccだ。基準をクリアしてれば、400ccをお願いしていた。どうせ採るなら、たくさんとっちゃえってこと。ところが、あるおじさんが「わしは200ccで」と言い出した。看護婦さんも、そのまま200ccでお願いすればいいものの、「400cc採っても大丈夫ですよ」と説明をはじめた。しまいにゃ、「わしゃ、200ccでしかせん」「先生、納得されません。説明してください」。いいよもう、400ccだろうが200ccだろうが。

リピーターが多い献血ルームと違って、初めて献血するような人が多いドサまわりではちょっとしたトラブルがおこることがある。私の経験では、初老の男性が「アメリカはエイズ入りの薬を日本に売りつけてケシカラン」と言い始めたことがあった。エイズじゃなくてHIVね、それに、日本の対応もまずかったし、そもそも安部英が…、ていうか、関係ないじゃん。何で今それを私に言う。「そうですね」とスルーして次の人の血圧を測ろうとしたけど、初老の男性動かない。「先生はいかが思われますか」。知るか。こっちは早く終わらせて病棟の仕事をせんといかんのじゃゴルァ。「興味深いお話だけど次の人がお待ちだから、終わってからゆっくりお話しましょう」と言ったつもりだったが、経験の浅い研修医のせいか、どうも本音が態度に出てしまったらしい。気分を害されてしまった。

こっちは献血を「お願い」する立場、あちらは無償で血液を提供する立場。お客様以上に神様なのだ。女医はセクハラまがいの言葉をかけられることもあるそうだが、その辺は我慢しないといけない。最近だと、「肝炎ウイルス入りの血液製剤を作るな」とか文句をいう人もいただろう。そういうのは、アルバイトではなく、もっと偉い人に言ってください。

完全に血液製剤を代替できる製品が開発されるまで、献血は必要とされるであろう。血液は常に不足気味である。みんなも、ときどきは献血に行ってあげてください。成分献血を勧められたら、急いでいない限り、そうしてください。献血ルームは快適だ。血圧を測るときに、医者をウォッチしてみよう。