NATROMのブログ

ニセ医学への注意喚起を中心に内科医が医療情報を発信します。

澤田石先生に対する反論と不確実な医療における考え方について(2016年1月30日)

■澤田石 順(生活の党) 吉良議員応援 on Twishort: ■ #HPVV ヒトパピローマウイルスワクチン #…に対する反論です。



ASIA syndromeについて。医療介入はリスクとメリットを勘案して判断するべきものでは?


1)重要論文 ``Human Papilloma Virus Vaccine and Primary Ovarian Failure:
Another Facet of the Autoimmune/Inflammatory Syndrome
Induced by Adjuvants'' American Journal of Reproductive Immunology (2013)
http://www.luontaisnetti.fi/hpv/3%20cases%20of%20Primary%20Ovarian%20Failure%20following%20HPVvaccination,%20Am%20J%20Reproductive%20Immunol%202013.pdf
これは、 #子宮頸がんワクチン (HPVV) 接種後症候群などに関する ASIA という症候群を提唱しているイスラエルのYehuda Shoenfeld医師らの論文。
HPVVとASIAがテーマとなる極めて大切な三例の報告。示唆するところ大

HPVワクチンが何らかの自己免疫性疾患を引き起こしているかもしれないとする論文。ケースシリーズであり、因果関係が示されたわけではないとは言え、警告としてこうした報告は貴重です。しかし、このような報告があったからといってワクチンを即座に中止すべきであるとは必ずしも言えません。HPVワクチンを中止することによって、前がん病変や子宮頸がんが増えるかもしれないからです。ワクチンをはじめとしてあらゆる医療介入には潜在的にリスクがあります。どの程度のリスクを許容すべきかについては議論があってしかるべきです。リスクがあるとしても、それ以上のメリットがあるなら、HPVワクチンを推奨するという考え方もあるのではないですか。

「ワクチンは症状のない人に予防的に介入するのであるから、通常の医療介入よりもより高い安全性を要する」という考え方には一定の合理性があります。しかしながら、その考え方に立つと、大きな疑問が生じます。澤田石先生には以下の質問にまだお答えいただいていません。

・前がん病変の減少まで証明できたHPVワクチンについては「あと十年くらい待とう」と言っている一方で、がん死どころか代理指標ですら有効性が証明されていない甲状腺がん検診については「速やかなスクリーニング検査を」と言うのは、ダブルスタンダードではないですか?

ワクチンと同様に症状のない健康な人への介入である甲状腺がん検診の効果は、HPVワクチンのように「代理指標では証明された」というレベルどころか、全く証明されていないレベルです。また、甲状腺がん検診は過剰診断という害が生じるのは確実です。HPVワクチンによる重篤な副作用と比べても、因果関係は確実で頻度も高いのです。効果が明確でなく害はしっかりある甲状腺がん検診にも反対しつつ、HPVワクチンにも慎重な立場を取るというのであれば、(同意はしないが)理解できます。しかし、甲状腺がん検診は「当然すぎる」という立場でありながらHPVワクチンには反対であるというのは、私には理解しがたいものです。甲状腺がん検診について「慎重の原則、予防の原則という一般抽象的理念の実現・遂行」を求めない理由は何ですか?


NHK【クローズアップ現代】 について


2) 2016/1/2 7NHK【クローズアップ現代】 #子宮頸がんワクチン
▼動画をuploadしました
1 youtube⇒ https://youtu.be/Urn-XgD1bK8
2 GoogleDrive⇒ https://drive.google.com/folderview?id=0B7mnpv5fqkkadFIzRmxabThYamM&usp=sharing
▼画像328枚をPDF化し公開⇒ https://drive.google.com/folderview?id=0B7mnpv5fqkkadFIzRmxabThYamM&usp=sharing
▼画像⇒ https://30d.jp/sawataishi/11 一括ダウンロード可

未見の上、澤田石先生自身の意見がついていないのでコメントしがたいです。「こんなに困っている患者がいる」ということが示されているのだとしたら、同様に「子宮頸がんに罹って困ったり亡くなったりした患者さんもいる。たぶん、もっとたくさん」とお答えします。また、「一括ダウンロード可」とするのは、著作権上問題があるのではないかと愚考いたします。


真実は簡単ではない


真実は簡単。HPVV接種後症候群は諸国で共通する新たな疾患(novel clinical entity/disease)ということ。このことについて、私は数年にわたる勉強と観察で確信してます。もちろん、私の個人的確信を押しつける気持ちなどありません。私が勘違いしている可能背はあります。私の確信が正しい蓋然性が高いとだけ思ってます。

HPVV接種後症候群は新たな疾患(novel clinical entity/disease)かもしれないし、そうでないかもしれません。私は確信にはほど遠いですが、「新たな疾患」ではない蓋然性が高いと考えています。そもそも「新たな疾患」かどうかがそんなに大きな問題なのでしょうか。たとえ「新たな疾患」ではなく既知の疾患であったとしても、ワクチンのメリットに見合わないほどの大きなリスクがあるならばワクチンは中止すべきです。逆に、「新たな疾患」であったとしても、ワクチンのメリットと比較して十分に小さいリスクであるならば、ワクチンを推奨するべきではないですか。もちろん、個々の人々がワクチンを拒否する自由は確保されるべきですし、実際に自由は確保されています。

澤田石先生は「タミフル脳症」のことはご存知でしょうか。「概ねしっかりと冷静に評論してますよ」と評しておられる薬害オンブズパースン会議の浜六郎氏らが提唱していた、いわば「新たな疾患」ですが、実際にはタミフルの服用がなくても起こりうる病態でした(■典型的な「タミフルによる睡眠中の突然死」、実はタミフルは服用せず)。インフルエンザはきわめて稀ながら、慢性疾患のない健康な人であっても突然死が起こります。タミフルの「薬害」が話題になり、インフルエンザによる突然死が注目されたため、さも「新しい疾患」であるかのように言われましたが、以前からインフルエンザによる突然死は起こっていたのです(■タミフル脳炎ではないインフルエンザ関連突然死 )。「HPVV接種後症候群」についても同様である可能性が高いと私は考えます。

私(NATROM)は「地頭(じあたま)が悪いのではないか」と澤田石先生は感じているとのことです。なるほど、そうかもしれません。地頭が良い先生にとっては「HPVV接種後症候群」が「新しい疾患」であると確信できるようです。しかし私からみると、既存の疾患が十分に除外されていないのではないかと思われます。 Anti-NMDA Receptor Encephalitisを含む辺縁系脳炎関連疾患、Psychogenic nonepileptic seizures、Pseudopseudoseizures、Psychogenic Movement Disorders、Complex regional pain syndrome、Chronic fatigue syndromeなどなど。これらの疾患はHPVワクチンが原因で起こっているかもしれませんし、紛れ込みかもしれません。HPVワクチン以前には注目されていなかっただけで、実際の罹患率は高いかもしれません。私の知らない疾患もいくらだってあるでしょう。どのような勉強と観察を行えば、これらの疾患を除外して「新たな疾患」と確信できるのか想像もつきません。

私が危惧するのは、これらの疾患の専門家が、「HPVV接種後症候群と言われているものの一部は既知の疾患である」という声を挙げにくいことです。HPVV接種後症候群に少しでも疑わしいことを述べれば、一部の医療ジャーナリストらによるバッシングがあることは火を見るより明らかです。問題提起のためであるから一部の医療ジャーナリストらの言動を許容すべきだと澤田石先生はお考えかもしれません。しかし、私はその考えに反対します。ウェイクフィールド事件のときも、冷静な議論がマスコミによって妨げられました。


澤田石先生はポパーの反証主義を誤解しています


Karl Popper が言うように、科学的仮説の条件は反証可能性 refutability を有すること。HPVV接種後の健康被害が、他のワクチンよりも「極めて多い」との「仮説」を私は支持してますが、この仮説を諸証拠により「証明」することは決してできません。

直接的に指摘すると失礼かと思いましたので、それとなくしか指摘(https://twitter.com/NATROM/status/690372283676938242 , https://twitter.com/NATROM/status/690721017115705345)しませんでしたが、澤田石先生はポパーの反証主義を誤解しています。私は15年前から■進化論と創造論 〜科学と疑似科学の違い〜というウェブサイトを書いており、科学哲学については素人の中では詳しいほうだと思いますが、澤田石先生のポパーについての言及は意味不明です。そもそもHPVワクチンを一般集団に推奨すべきかどうかという高度に複雑な問題は、反証主義にそぐわないと考えます。


不活化ポリオワクチンの「副作用」が問題視されたらどうすべき?


 ワクチン一般を否定するニセ医学は論外。ワクチンが人類に多大な恩恵をもたらしてきたことは厳然たる事実。ポリオの不活化ワクチン接種を提唱してきた「ポリオの会」とはリハビリ棄民反対闘争でかかわることとなり、個人的に応援しました。上昌広医師と久住英二医師はポリオの不活化ワクチン接種推進で絶大なるご尽力をして下さいました。伊藤隼也氏(ジャーナリスト)を久住医師とかNatrom医師に批判されてますが、伊藤さんはポリオの不活化ワクチン接種推進で大変重要な仕事をされました。

伊藤氏の仕事については存じています( https://twitter.com/NATROM/status/130067660481368065 )。伊藤氏の能力が衰えたのか、あるいはもともと能力に欠けていたけれどもたまたま正しい運動にコミットしただけなのかは、わかりません。どちらにせよ、過去の実績がいかに素晴らしくても現在のニセ医学的な主張の免責にはなりません。ところで、不活化ポリオワクチン接種後に乳児が死亡した事例があります。ほぼ紛れ込み事例だと私は考えますが、反ワクチン運動家が死亡事例をことさら取り上げて、「いったんは不活化ポリオワクチンを中止すべきだ。慎重の原則、予防の原則でいこうではないか。論文なんか読まなくてもいい。感じるのが大切」などと言いはじめたら、澤田石先生はどう答えますか?

一部の医療ジャーナリストが、「不活化ポリオワクチンの犠牲になったかわいそうな赤ちゃん」を大々的に取り上げてマスコミで報道すれば、きっと、「私の子どもも不活化ポリオワクチン接種後に死亡した(2年後ぐらいに。でもワクチンが原因である可能性は否定できませんよね)」「死亡はしないものの大病した」という事例が後から次々に発見されるでしょう。なぜなら、ワクチンを打っても打たなくても、一定の割合で死亡や大病は生じるからです。「紛れ込み事例ではないか」という冷静な意見は、「直接に患児を診察していないのに無責任なことを言うな。悲惨な赤ちゃんにとって有害な言説だ」というヒステリックな声にかき消されます。ケースシリーズぐらいなら論文にだってなります。こういう事態が生じたら、澤田石先生はどうすべきだと考えますか?

私だったら、「医療には不確実である。リスクとメリットを勘案して判断するべきだ。WHOもワクチンを推奨している。不活化ポリオワクチン反対者とWHO、どちらを信用するべきか」と、淡々と訴え続けます。


「WHOが超国家企業群から莫大な資金援助を受けている事実を示す証拠」は存在するか?WHOが信頼できないとして、何を信頼すべきなのか?


(WHOが製薬会社の強い影響下にあることについては膨大な文献、報道があります。ここにメモしたのは、何百から重要なものを選択したのではなく、私のもともとのメモにあったものや、本日ちらりと検索して目についたもの。リストに追加して欲しいのがあればメール下さい。それが大切とみたら追加します)

先んじてツイッターで『「WHOが超国家企業群から莫大な資金援助を受けている事実を示す証拠」にはなっていないのではないか、むしろそのような事実は存在しないという証拠なのではないか』(https://twitter.com/NATROM/status/692331740791111680)とツイートしたところ、「WHOが組織として公的に資金援助を受けているとの私の主張は、確かに証明proofを欠きます」(https://twitter.com/sawataishi/status/692337370830516224)、「正直に言います、誇張しました。誇張の作用がネットで良いと判断したから」(https://twitter.com/sawataishi/status/692340114232602626)とのお返事をいただけました。「WHOが超国家企業群から莫大な資金援助を受けている事実を示す証拠」は存在しないことに同意されたものだと考えます。

「WHOが超国家企業群から莫大な資金援助を受けている明白な証拠はないが疑惑はある。検証は困難であるが効果的に隠しているという可能性はある」というようなご意見もあろうかと思います。法律で禁止されているにも関わらず犯罪が起こるのと同様に、「製薬企業から金銭を受理するのを明確に禁じて」いるのも関わらず、不適切な金銭授与が行われることもあるでしょう。しかしながら、誰にも気づかれずに莫大な資金援助を行い続けることが果たして可能でしょうか。

さらに言うなら、よしんば莫大な資金援助があったとしても、WHOによる声明を製薬会社の好き勝手に変えることはできません。なぜならば、WHOによる声明は主に査読のある医学雑誌に発表された論文、および、そのとき医学的コンセンサスに基づいて行われるからです。HPVワクチンが現在推奨されているのは、査読のある医学雑誌に発表された論文に基づけば、HPVワクチンのメリットがリスクを上回ると考えられているからです。

WHOをはじめとした公的な組織が、製薬会社の思惑から完全にフリーであるとは思いません。多かれ少なかれ、何らかの影響はあるでしょう。ですが、公的な組織が医学的コンセンサスから完全に外れた声明を行えば、専門家集団からの批判に耐えられないでしょう。「利害が絡む分野ではWHOは信用できない」という主張は明確に間違っています。「ニセ医学」支持者の常套手段です。WHOの信頼性を問題にしたそもそものきっかけは、「時にWHO自体が自前の調査能力も予算も殆ど無い製薬会社に媚びる猫程度」*1という、医療ジャーナリストの伊藤隼也氏の発言です。澤田石先生にお尋ねします。

伊藤氏の情報源は、現代医学を完全に否定する医師であったり、非医療従事者のブログであったり、根拠のない代替医療を勧める海外の商業サイトだったりします。伊藤隼也氏の発言は、WHOより信用できるとお考えですか?

伊藤氏は、しばしば利益相反を問題にします(利益相反ぐらいしか問題にできない、とっていもいいぐらい)。確かに利益相反には気を付けなければなりません。伊藤氏自身は利益相反からフリーですか?根拠を十分に確認するというコストをカットして現代医学を否定する言説を述べることで、一定層の顧客を楽に得るという利益があるのではないですか。「HPVワクチンによる被害」を訴えるという「正義」のためなら、ニセ医学に基づいた主張を行うのは許されるのでしょうか。


追記

日付が誤って2015年になっていたところを2016年に訂正した。なお、システム上の日付が0016年になっているのは意図的なものである。対象読者が広いものは通常の日付で、(これまでの議論を読んでいないと意味が分かりにくいなどの)読者を選ぶものは古い日付で目立たないようにしている。

*1:猫は人よりも尊いので、二重の意味で間違っている