NATROMのブログ

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モルヒネは体に悪い?

■モルヒネ使用、1割「ためらう」 がん治療医調査(asahi.com)


 がん治療に携わる医師の10人に1人がモルヒネなど医療用麻薬の使用をちゅうちょしている――。痛みの緩和ケアに関する調査でこんな結果がでた。世界保健機関(WHO)は段階的な鎮痛剤使用を勧めており、がん治療では主流になりつつあるが、浸透し切れていない実態が浮き彫りになった。
 製薬会社ヤンセンファーマが1月、全国の外科医145人、内科医150人の計295人に調査した。
 その結果、モルヒネ、フェンタニルなど医療用麻薬を「痛み止め」として使うのに「ちゅうちょしない」のは90%。残り10%は「精神依存を起こす恐れがある」ことを理由に「ちゅうちょする」と答えた。

記事を読んでもらえればわかるように、癌性疼痛に対する医療用麻薬の使用は世界スタンダードである。「なお医療用麻薬をちゅうちょする医師がおり、痛みを十分にコントロールされない患者が存在する。緩和ケアはまだ十分とは言えない」という専門家の意見を引用するなど、記事は医療用麻酔の使用を躊躇する10%の医師に対して批判的なスタンスだ。

で、コメントはおろか、トラックバックも受け付けなくなった六星さんが、この話題に触れていた。てっきり、「10%もの医師がモルヒネの使用を躊躇するなど、勉強不足です。なぜこのような事になっているのでしょうね」などと書くのかと思いきや、さにあらず。


■今日のチョット気になること5/26(めぞん六星の書斎の部屋)


「どうせガンで死ぬんだから精神依存を起こしても良いだろう」という割り切りは俺は仁術としての医療の精神を理解していない発言だと思います。
患者が苦痛を和らげる為にモルヒネを求めるのであれば、医師もそれを否定することはないでしょう。
そうではなく、医師が患者にモルヒネを能動的に勧める事が正しいと考えるのは間違いだと思います。
モルヒネは体に悪い。
そんなものを患者に与えるのは間違っていると感じる医師のバランス感覚をもっと大事にすべきだと思います。

モルヒネは、癌性疼痛に対して安全で有効性の高い薬である。むろん、副作用はある。このことをもって、「モルヒネは体に悪い。医師は患者にモルヒネを能動的に勧めるべきでない」と言うのであれば、あらゆる薬・処置に関しても「能動的に勧めるべきではない」ということになってしまう。さらに、「どうせガンで死ぬんだから精神依存を起こしても良いだろう」という発言はasahi.comの元記事ではなされていない。六星さんは、誰も言っていない発言に対して感想を述べたり、反論したりすることがよくあるので、今回もそうなのだろう。

実際のところ、鎮痛を目的として麻薬性鎮静剤の投与を受けているがん患者の場合、精神依存は形成されない。非医療従事者がそんなことを知らないのは当然だ。「がん治療に携わる医師」でも知らない奴がいるくらいだから。問題は知らないことではなく、自分の知らないことに基づいて、他人の考えが間違っているなどと発言することだ。「一言目には中傷する」って、いったい誰のことなんだろうね。