NATROMのブログ

ニセ医学への注意喚起を中心に内科医が医療情報を発信します。

医師国家試験を解いてみよう。「がん検診の有効性を示す根拠はどれ?」

がん検診にまつわる誤解は根深く、医師でもけっこう間違えている人がいます。ただ、医師国家試験にがん検診が有効である根拠を問う問題が出題され、若い世代の医師はがん検診の疫学をより正確に理解しているものと思われます。

厚生労働省のサイトに過去問がありましたので、ここで引用・紹介します。さて解けますか?このブログの読者は、その辺の平均的な医師と比べると、ずっと正答割合が高いのではないかと思います。





第106回医師国家試験問題より。


集団に対してある癌の検診を行った。
検診後に観察された変化の中で、検診が有効であったことを示す根拠はどれか。
a 検診で発見されたその癌の患者数の増加
b 検診で発見されたその癌の患者の生存率の上昇
c 集団全体におけるその癌の死亡率の低下
d 集団全体におけるその癌の罹患率の低下
e 検診に用いられた検査の陽性反応適中率の上昇

答えは下のほうに。



























正解c. 検診後に集団全体におけるそのがんの死亡率の低下が観察されれば、がん検診の有効性を示す根拠になりうる。細かいことを言えば、検診前後で検診とは無関係な別の要因でがんの死亡率が下がっただけかもしれないけれども、他の選択肢を考慮すればcしかない。より厳密には、前後比較ではなくランダム化比較試験で、検診群と対照群を比較して、検診群でがん死亡率が小さければ検診に利益があることが示される。

a 検診で発見されたそのがんの患者数の増加は、がん検診の有効性の根拠にならない
 がんの中には一生涯症状を来たしたり死亡の原因になったりしないがん(過剰診断)がある。過剰診断分を発見することでがんの患者数は増加するが、がん検診の利益ではない。むしろ害である。また、将来発症するがんを前倒しで診断すれば、たとえ予後を改善しなくても、がん患者数は一時的に増加する。福島県の甲状腺がん検診の議論をしていると、「手術が必要ながんが発見されているのだから、検診を縮小するなんてとんでもない」といった主張がみられるが誤りだ。

b 検診で発見されたそのがんの患者の生存率の上昇は、がん検診の有効性の根拠にならない
 過剰診断が含まれると、検診に利益がまったくなくても生存率は上昇する。また、過剰診断がなくても、検診ががんの診断を前倒しすることで見かけ上生存期間が延びる(リードタイムバイアス)。また、検診では成長が緩徐で予後のよいがんほど発見されやすい(レンクスバイアス)。検診に利益がまったくなくても、リードタイムバイアスやレンクスバイアスで生存率は上昇する。

d 集団全体におけるその癌の罹患率の低下は、一般的にはがん検診の有効性の根拠にならない
 (前がん病変ではなく)がんを早期発見するタイプの検診ではがんの罹患率を下げることはできない。むしろ、有効な検診でもがんの罹患率は増える。ただし、大腸がん検診や子宮頸がん検診といった前がん病変を発見するタイプのがん検診では、がんの罹患率の低下でも有効性を評価することがある。悪問と言えなくもないが、がん検診の有効性の評価をがん死亡率で評価することは明らかなので、回答は迷わない。

e 検診に用いられた検査の陽性反応適中率の上昇は、がん検診の有効性の根拠にならない
 がん検診でいう陽性反応的中率は、一次検査で陽性であった人のうち精密検査でがんであった人の割合である。陽性反応的中率は一次検査の感度、特異度、およびがんの有病割合に影響を受けるが、がん検診の有効性とは直接的には関係しない。仮に陽性反応適中率が100%の検査があったとしても、がん検診が有効でないことはいくらでもありうる。



さて、ガッテンしていただけましたでしょうか。いまいち納得できない人もたくさんいらっしゃるでしょう。医師でもよく理解できていない人がいくらでもいるぐらいですから。より詳しく理解したい方は疫学の教科書を読むことをお勧めしますが、以下のリンク先を読んでくださってもかまいません。



■がん検診の考え方 ■なぜ「生存率」ではだめなのか
■検診における、「生存率が○○倍に」という表現の罠――ためしてガッテンと尾道方式 - Interdisciplinary
■検診で発見されたがんの予後が良くても、検診が有効だとは言えない - NATROMの日記



がん検診は害も伴います。みなさまが想定しているよりもずっと大きな害があります。「がんを早期発見できた」「生存率が改善した」というだけでがん検診を推進すると、利益よりも害が大きい検診を多くの人が受けてしまうことになりかねません。韓国の甲状腺がん検診や、日本の神経芽腫マススクリーニングがそうでした。「手術を要する癌が見つかってよかったのではないか」などと仰る人もいますがとんでもないことです。害のほうが大きかった検診から得られた教訓をご存じないのでしょう。

研究目的で、利益がまだ明確ではない検診を行うこともあるでしょう。その場合は、あくまでも研究目的であること、想定される害、そして「利益はまだ明確ではない」ことについて十分な説明と同意の上で施行されなければなりません。「早期発見できます」「生存率が上がります」といった、がん検診の有効性について誤認させる説明だけで、有効性が明確ではない検診が行われてはなりません。

他人にアレルギー症状を起こさせる疾患「PATM(パトム)」は実在するか?

PATM(パトム)についての医学論文はほとんど存在しない

「PATM(パトム, People Allergic To Me)」と呼ばれる病気がある。本人には必ずしも症状はないが周囲の人に咳、くしゃみ、鼻水といったアレルギー症状を起こさせるとされる。典型的には、自分が電車に乗ったり教室に入ったとたんに周囲の人が咳き込んだり、マスクをつけたり、鼻をすすったりする。

私がPATMを知ったきっかけは、PATMを取り上げたテレビ番組について意見を求められたことだった。Google検索ではPATMの診療を行っている日本の医療機関が見つかった。もちろん保険診療ではなく自費診療だ。PATM以外に「遅延型フードアレルギー」「副腎疲労」「リーキーガット症候群」といった医学的に確立されていない疾患概念に対し、やはり医学的に有用性が明確でない検査を行い、サプリメント等の有用性が証明されていない治療を行っている。

病気について調べるには、Google検索のみならず、Pubmedといった医学論文検索サイトを利用する。しかし、少なくとも現時点で、PubmedでPATMに関する論文を見つけることはできなかった。つまり、PATMについて正式な診断基準がないのはもちろん、治療法や病態もわからなければ、症例報告すら存在しない。わずかに和文誌で皮膚ガス測定と関連した報告があるのみである。


PATMと自己臭症(自臭症)の類似

もちろん、論文がないからといってPATMという病気がないことにはならない。また、PATMとされている患者さんの苦痛は気のせいなどではなく実在しているものである。しかしながら、病気の真の原因について正しく認識できなければ、かえって患者さんの不利益になる。私はそれを危惧する。

テレビ番組で紹介された事例では、周囲の人はアレルギー症状のみならず異臭を訴えたとされた。あるいは、汗臭さを指摘されたことがPATM発症のきっかけだとしている体験談もあった。自己臭症(自臭症)との類似は明らかだ。自己臭症とは、実際には体臭はほとんどないにも関わらず、他人が体臭を嫌がっているのではないかと不安に陥る疾患である。具体的な実例が『Dr 林のこころと脳の相談室』で提示されているでリンクする。


■【2876】私は口臭で人に迷惑をかけています。ちゃんと証拠があります。 | Dr林のこころと脳の相談室
■【3393】過敏性腸症候群ガス型でしょうか | Dr林のこころと脳の相談室


PATMは必ずしも臭いを伴うものではないが、患者さんは「他人が咳やくしゃみをしている」ことをたいへんに気にし、また、自分の訴えが気のせいではない根拠とする。自己臭症の患者さんも同様に他人に「鼻すりすりされたり、咳されたり、口をおおわれたり」し、『「気のせいではない、証拠がある」と主張して譲らない』。電車や教室内では、PATMの患者さんがいようといまいと、咳をしたり、くしゃみをしたりする人はいる。自己臭症の患者さんがいようといまいと、鼻を触ったり、口を覆ったりする人がいるのと同様だ。


PATMの奇妙な点

PATMについての体験談を読むと、家庭内や医療機関ではほとんど他人にアレルギー症状を起こさない。つまり家族や医師に相談しても「別に咳をしたくなったりくしゃみしたりしない」と言われて、苦しみを理解してもらえないわけで、これはたいそう辛い。ただ、PATMが本当にアレルギーを周囲に起こさせるとしたら、なぜ家族や医師に起こりにくいのだろうか。

アレルギーは個人差があるので、家族や医師がたまたまアレルギー感受性がないということはあるだろう。しかし、多くの医師が皆が皆、アレルギー症状を起こさないということがありうるだろうか。あるいは医療機関にいるのは医師だけではなく、看護師や受付の事務員をはじめとして多くの職員が働いている。そろいもそろってアレルギー感受性がないということがありうるだろうか。PATMが実在しているなら、医師の誰かがとっくに気づいて、論文として発表しているはずだと私には思われる。

一方、PATM患者さんの主観では、アレルギー症状を起こす人の割合は結構高い。体験談の一つによれば、教室の70%がマスクをし、マスクをしていない人も咳をしたり、鼻水をすすっていたりしたとのことである。たしかにこれは辛い。ただ、これほど周囲の多くの人にアレルギー症状を引き起こすのに、医療機関では何も起こさないなんてことがどれほどありうるか。「緊張していない状態ではアレルギーの原因物質を発しない」という説もあるが、自宅で身内がアレルギー症状を起こさないことは説明できても、医療機関でのことは説明困難だと思われる。

さらに驚くような体験談も見られる。外を歩いていると家の中の人が反応する、逆に、家の中にいても外を歩いている人が反応する。アレルギーの原因物質は窓を閉めていてもガラスや壁を貫通するのだ。車を運転していると、歩行者や対向車の運転手が反応し、後続車が車間距離を開ける。外出先でトイレに入っていたらテロの毒ガス兵器と思われて通報される。などなど。

「それは極端な事例であって、自分は本当のPATMなのだ」と考える患者さんもいるだろう。もしかしたらそうかもしれないが、現時点で、「本当のPATM」を区別する手段はない。患者さんには責任はないが、金を取ってPATMの診療をしている医師は、診断や治療にあたって根拠を提示すべきではないか。


皮膚ガス検査はPATMが実在する証拠にならない

PATMとされる被験者の皮膚ガスからトルエンやキシレンなどの化学物質が対照者と比べて多く検出されたという報告がある。皮膚ガス検査によってPATMが心理的なものでないと証明されるという主張があるが誤りだ。皮膚ガス検査よりも先に、患者さんが周囲の人にアレルギー症状を引き起こすか否かを検証する必要がある。アレルギー感受性に個人差があることを考慮して複数(たとえば10人)の人を、できればブラインド条件下で被験者の近くにいてもらい、咳・くしゃみ・鼻水といったアレルギー症状が生じるかどうかを観察する。こうした負荷試験で周囲の人にアレルギー症状を起こすと確認された人の皮膚ガスと、そうでない人の皮膚ガスの結果を多数比較して、はじめて皮膚ガス検査の医学的な意義が認められる。

そもそも、皮膚からトルエンなどの化学物質が発生するとして、周囲の人に症状を起こすほどの高濃度であるとはきわめて考えにくい。後続車の運転手は極端だとしても、「半径2−5m程度の範囲の人」に症状を起こすとされている。2m離れた人に症状を起こすほどの高濃度の化学物質が発生しているなら、診察した医師がアレルギー感受性がないにせよ、皮膚に鼻を近づければ臭いを感知できるのではないか。室内で長時間一緒に暮らしている家族に症状が出るはずではないか。本人は平気なのか。

なお、皮膚ガス検査の研究報告を行ったグループの一員は皮膚ガス検査キットを販売している企業の関係者である。また、PATMの診療をしている医療機関でも皮膚ガス検査を行っている。値段は2万円〜2万5千円。上記したように検査の医学的意義は現時点では不明である。


PATMに限らず、怪しい疾患概念が受け入れられる理由

さまざまな症状が生じるにも関わらず、通常の病院で行われる検査で異常が認められないことはよくある。検査で異常がないからといって、病気がないとか、ましてや症状がないとは言えない。しかし、ときに「気のせいでしょう」などと不適切な説明をする医師がいる。そうした診療に不満を持つ患者さんは、PATMに限らず不確かな疾患概念を提唱する代替医療に流れる。「気のせい」にしてしまう医師よりも、いろいろ検査し、「気のせいではない」と訴えを肯定し、(医学的には根拠に乏しかろうと)なんらかの病名を付け、治療してくれる代替医療を信用するのも無理はない。患者さんが悪いのではなく不適切な診療を行った医師が悪いのだ。

プラセボ効果があるので代替医療が一概にすべて悪いとは言わないが、それでも問題は大きい。自費診療なのでお金がかかるし、潜在的に害のある治療がなされることもある(キレーション治療がなされている体験談もあった)。病態を見誤れば症状は改善しない。疾患によっては、心理的な要因の強い疾患と認められないこと自体が症状の一つであり、治療のさまたげになりうる。

『Dr 林のこころと脳の相談室』では、自分が過敏性腸症候群のガス型ではないかという相談に対し、「ご自分が自己臭症であることを認めることが、治るための第一歩です」と書かれている。この相談者に対し「あなたは精神病なんかじゃないよ。このサプリメントで良くなるよ」などと吹き込む人がいて、相談者が信じてしまったらどうなるだろうか。病気は治らず、サプリメントをずっと買ってもらえるから、治療を提供する側の利益にはなるだろうが。


患者、医療者、その他の人たちはどうすべきか

PATMで苦しんでいる患者さんは、代替医療を行っているクリニックで今現在調子がよいならいいが、もし良くならないようなら、自己臭症を診る精神科医に相談してみるという選択肢も考えてみてはいかがだろうか。PATMを疑っている段階では、自費診療のクリニックよりも先に、精神科に受診することを強く勧める。

また、もし今後PATMを扱う予定があるメディアの方は、検査会社や代替医療クリニックの関係者だけでなく、精神科医の意見も聞くことをお勧めする。安易に医学情報を報道することは患者さんの利益を損なうことを自覚していただきたい。WELQ問題は記憶に新しい。一般のみなさまは、インターネット上の医療関係の情報は必ずしも正しくないことを、心に留めよう。

医療関係者は、患者さんの訴えを「気のせい」にしないように*1。患者さんが標準医療から離れる理由の一端は、通常の医療を行っている側にあることを自覚すべきである。PATMの研究を行っている研究者に対しては、負荷試験のような方法でPATMの実在性を示すか、少なくとも自己臭症に詳しい精神科医をメンバーに加えることを提案する。それから、できれば英文で研究成果を発表していただきたい。


*1:これだけ書いても、おそらく「なとろむはPATM患者さんの訴えを無視し、気のせいだとしている。患者蔑視だ」などといった的外れな批判があることを予言しておく

臨床環境医の利益相反

たとえばの話、「日本高血圧学会」の学会窓口を、降圧薬を売っている製薬会社がやっていたら、いくらなんでもまずいと思うよね。少なくとも現在の常識から言えば論外。何が問題かというと、たとえば「この降圧薬の効果はそれほどでもなく、むしろ副作用のほうが大きい」なんてことを学会で発表しにくくなる。また、学会の幹部が大学を退官したのち、製薬会社のビル内でクリニックを開業したら、みなさんどう思うか。「それとこれとは無関係です。私は医学的に正しいと考える医療を行っています」と医師が言ったとして信用できるだろうか。



さて「臨床環境医学」という分野があります。臨床環境医が提唱した「化学物質過敏症」という病気は、ごく少量の化学物質に反応してさまざまな症状を引き起こすのだそうです。しかし、二重盲検法、つまり試験をする側と被験者の両方が化学物質かどうかわからない方法で化学物質を負荷すると、症状が出たり出なかったりします。化学物質過敏症は、主流の医学界では正当な疾患概念とはみなされていません。詳しくは■化学物質過敏症に関する覚え書きを参照してください。

臨床環境医の一人にダラス環境健康センターのウィリアム・レイ氏がいます。治療にホメオパシーを使ったりして、当局から医師免許を取り消しの懲戒処分請求をされたりしていますが、「日本臨床環境医学」の学会誌の創刊時に祝辞が載るような偉い先生です。




「臨床環境医学会」雑誌発刊を祝して


ウィリアム・レイ氏はAEHF(アメリカ環境健康財団・American Environmental Health Foundation)という組織を作っています。ウィリアム・レイ氏のクリニックに併設されているそうですが、インターネットでもどういう組織がわかります。普通の製品では症状が出てしまう化学物質過敏症の患者さんのために、さまざまな「安全な」商品を提供しています。化学物質過敏症の患者さんが増えれば増えるほどたくさん商品が売れそうです





「すべて天然All Natural」の石鹸


日本にもAEHF-JAPANといってAEHFの支部があります。「(化学物質過敏症の)治療活動に必要なアイテムを取りそろえて」いるのだそうです。AEHF-JAPANは、とある食品会社内にあります。日本の化学物質過敏症の患者さんのために頑張っておられるのですね。





「AEHF(アメリカ環境健康財団)は、アメリカはダラスに存在する組織です。

AEHFJAPANはその日本支部となります。」



日本に化学物質過敏症の疾患概念を伝えたのは日本臨床環境医学会です。さすがに今ではそうではないようですが、少なくとも平成17年ごろは、日本臨床環境医学会事務局はAEHF JAPANにおかれていました。「化学物質過敏症の治療活動に必要なアイテムは実はそれほど必要ではない」ことが科学的に明らかになればAEHF JAPANの売り上げが落ちますが、学会参加者が高邁な精神を持っていれば学会で遠慮せずに発表するので問題ないのでしょう。




日本臨床環境医学会事務局はAEHF JAPANにおかれていた



日本の臨床環境医学に貢献した医師の一人に宮田幹夫氏がいます。日本臨床環境医学会元理事長で、化学物質過敏症の第一人者とされていて、著作も多数、■電磁波防護製品の効果を立証した研究も発表しておられます。宮田幹夫氏は北里大医学部教授を退官されてのち、「そよ風クリニック」を開業し、いまでも化学物質過敏症患者さんの診療にあたっておられます。このクリニックの住所がAEHF-JAPANがある食品会社と同一です。なんでも、その食品会社の2階にあるとか。クリニックを受診した化学物質過敏症の患者さんがすぐに安全な商品を買える素晴らしい環境ですね。



このたび、■街にあふれる「香害」で体調不良に 「誰もに起こり得る」化学物質過敏症に注意- 産経ニュースにて、宮田幹夫氏がコメントした。記事によれば「においによる被害の多くが「化学物質過敏症」(CS)の発症」とのことだ。しかしながら、記事で問題になっている「香害」は化学物質過敏症とはかなり異なる。臭覚として感知できるレベルの化学物質が体調不良を起こすというのは普通にありうる話で、臨床環境医学によるきわめてユニークな仮説に基づかなくても説明可能だ。化学物質過敏症の疾患概念が疑わしいとされている理由の一つは、臭覚閾値よりもさらに低いきわめて低濃度の化学物質でも症状が生じうるとの主張だ。臭覚閾値より濃度の濃い化学物質によって起こる「香害」と化学物質過敏症を混同すべきではないし、産経新聞は宮田幹夫氏にコメントを取るべきではなかったと、私は考える。