NATROMのブログ

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日本の幼児死亡率と中国製のベビーフードに関係があるとは言えない

2022年8月8日追記:元の「世界最悪の日本の幼児死亡率の原因は中国製のベビーフードだったんだよ!!」を改め、改題しました。なぜなら、皮肉であることを読み取れない人が一定数いるからです。

Youtubeの動画。「元データはチャンネル桜 2008.07.24 闘論!倒論!討論!食糧問題と資源外交」とのこと。再生回数は3万回超。


■幼児死亡率が世界最悪の日本 原因は中国製のベビーフード その他危険野菜等中国食品で日本人が抹殺されかねない


内容は、おおむね「世界最悪の日本の幼児死亡率の原因は中国製のベビーフードだったんだよ!!」と言っているようなものだった。水間政憲というジャーナリストが、国内産100%のものに比較して、中国産の食品を使っているベビーフードに、「鉛が数十倍入っている」という独自の調査を行ったことと、日本における1歳から4歳児の死亡率が「世界で最悪」であるという2005年の厚生労働省の調査を紹介している。厳密に言えば、ベビーフードが高い日本の幼児死亡率の原因だとは水間氏は断定していないのだけれども、そう思わせるように強く誘導している。

私は食品の専門家ではないけれども、いくつか疑問が湧く。サンプルはいくつ測定したのか?測定方法は信頼できるのか?「鉛が数十倍入っている」という相対的な量は意味があるのか?害が生じる量かどうかという絶対値で評価すべきではないか?動画では詳細は不明である。SAPIOという雑誌にレポートを出しているらしい。でも、SAPIOってただの商業誌だろう。専門誌に論文として発表していないのかな?あるいは、ネットで詳細なデータを発表していないのかな?

もし私が、中国産の食品中に含まれる重金属の害について、きちんとしたデータを持っていたらとしたら、専門家の批評に耐えうるメディアに発表する。SAPIOやチャンネル桜でしか発表しないとなると、「専門家からみたら穴だらけのデータしかないのだろう。リテラシーの足りないネット右翼の不安を煽って商売しているだけ」と思われかねない。

重金属を多く含むベビーフードが高い幼児死亡率の原因のはずがないことは、私でもわかる。仮に死亡の原因となりうるほど大量の重金属がベビーフードに含まれていたとしよう。その場合、死亡者だけでなく、死亡に至らない中毒患者も大量に生じるのですぐにわかる。リアリティを損なわずに不安を煽るのなら、「死亡するほどではないが、軽度の健康障害が生じる可能性は否定できない」と私なら言う。そもそも日本の幼児死亡率が「世界最悪」というのもミスリードである。他国であれば1歳になる前に死亡する児が日本では1歳以上になるまで生き延びるので、見かけ上、幼児死亡率が高くなる。ベビーフードが原因であるなら乳児死亡率が低い理由を説明できない。

しかし、番組内で、あるいはYoutubeのコメント欄で、死者が出ているっていうのに、中毒患者がいないってのはどういうわけよ?という疑問を呈した人はほとんどいない。水間氏は天然なのか、それとも、わかっててやっているのか。わかっていてやっているとしたら、「顧客」の程度を正しく把握しているのだろう。